中国東北地区における地域開発の変遷

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  • Transition of regional development in the northeast China

抄録

1.資源供給基地としての「満洲」 中国の東北地区には清末に多くの移民が流入し、やがて大豆(大豆かす・大豆油を含む)が外貨を稼ぎ出す国際的な商品となった。これが張作霖政権のそして「満洲国」の経済的な基盤となった。その後、戦略物資の調達のために日本による炭鉱や製鉄など鉱工業への投資が積極的に行われた。また、日本からの開拓団の入植先となり、一貫して食料供給地としての役割を担っていた(劉ほか 2006; 安富 2013)。本研究では、そのような植民地経済的な資源供給基地であった東北地区において、人民共和国期になってからはどのような地域開発が行われ、この地区の位置付けがどのように変化してきたのかを検証する。2.重工業化と資源開発――1950年代から60年代半ばまで 1953年からスタートした第1次5カ年計画においては、156のプロジェクトのうち57までが東北地区に集中していた。「満洲」が残した基礎の上に重工業化と資源開発が進められ、国家の資金が集中的に投下された(表1)。1959年には大慶油田が発見され、まもなく石油供給基地としての地位を確立する一方、石炭の生産量が全国に占める割合は60年代前半から下降し始めていた。「満洲」期に比較すると対外貿易は大きく縮小しており、東北地区の諸資源は中国国内へ供給されるようになった。3.「三線建設」の影響――1960年代半ばから1970年代まで 中国を取り巻く当時の国際情勢を受け、軍事的な考慮から、「三線」と呼ばれる中国の西部内陸地域に重工業の拠点を建設あるいは移転させることが、1960年代の半ばから実行された。その際に、すでに重工業の集積があった東北地区からは、いくつもの国有企業が、その一部または全部を四川省や陝西省といった内陸部へ移転させた。関係が悪化するソ連と隣接し、資本主義陣営の諸国とは海を隔てて対峙する東北地区は「一線」であるという認識から、国家投資がはっきりと抑制されていった。4.「東北現象」の顕在――1980年代から90年代まで1980年代になると中国は改革開放へと舵を切るが、その主な舞台となったのは経済特区の設置などにみられるように華南の沿海部であった。1990年代になると、外資の流入先は上海をはじめとしたより広い地域に拡大し、東北地区においても遼寧省の大連市は著しい経済発展を見せるが、その効果が東北地区に広く波及することはまだなかった。また、国有企業改革が断行される過程でその比重が大きい東北地区の社会経済への影響が大きかった。そうした結果、この時期に東北地区への投資はいよいよ最低の水準となり(表2)、いわゆる「東北現象」あるいは「東北病」と呼ばれる東北地区経済の地盤沈下が明瞭になった。他方、トウモロコシなどの生産が伸び、食糧供給地としての役割が再び強まり始めるのもこの頃からである。5.「東北振興」の開始――2000年代から現在まで 「西部大開発」政策に続き、2003年前後から「東北振興」の諸施策が国務院から打ち出された。国有企業の改革を継続し、ハイテク産業の育成、研究開発能力の向上、外資系企業の誘致などの必要性が強調された(加藤 2005; 朱 2013)。2005年頃から東北地区への固定資産投資が増加しており、外資による直接投資についてはそれよりも早く2000年頃から急速に増加している。6.資源供給基地からの脱皮 人民共和国の60年あまりが経過する中で、その初期には重工業に特化していた産業構造が次第に平準化されてきた。圧倒的だった鉄鋼や自動車のシェアは低下し、エネルギーについてはもはや供給地から消費地へと変わっており、資源供給基地としての役割は、食糧生産などを別にすれば、すでに小さくなっていると言えよう。中国の沿海部の経済発展が一段落した現在においては、広大な土地や質の高い労働力のような生産要素に関する東北地区の優位性が改めて評価され、経済発展というレースの周回遅れの先頭走者になったと例えることができるかもしれない。 加藤弘之2005. 中国東北地域の開発と北東アジア.大津定美編著『北東アジアにおける国際労働移動と地域経済開発』43-66. ミネルヴァ書房.朱 永浩 2013. 『中国東北経済の展開――北東アジアの新時代』日本評論社.安富 歩 2013. 満州の経済開発.岡本隆司編『中国経済史』235-236. 名古屋大学出版会.劉 洋・金 鳳君・賈 若祥 2006. 区域発展歴程与可持続発展態勢.金 鳳君・張 平宇・樊 傑・劉 衛東・郝 占慶・陸 大道等『東北地区振興与可持続発展戦略研究』20-43. 商務印書館.

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  • CRID
    1390001205694371328
  • NII論文ID
    130005481453
  • DOI
    10.14866/ajg.2014a.0_173
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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