地方都市の工業化における地方有力者と外部資本の役割

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書誌事項

タイトル別名
  • The role of local capital and outside capital about the industrialization of the local city
  • 郡山と倉敷を比較して
  • Koriyama and Kurashiki as an example

抄録

地方都市の工業化は、それを可能にする資源や土地、交通・通信手段といったインフラの整備状況とならんで、工業化を推進した人間主体の存在と、これを媒介とした資本の蓄積、または外部からの積極的な投資が重要な意味を持つと考えられる。そこで、本研究は、地方都市における有力者や彼らが関連した企業の活動が、都市形成に果たした役割を明らかにすることを目的とする。具体的には、早くより資本や産業技術の蓄積があり、工業化が進んだ倉敷と、そのような蓄積が弱い一方で、公権力や財界の関与を通じて都市形成を進めた郡山を比較する。なお、ここでいう都市形成とは、市街地の拡大と製造工業の企業数および資本規模の増大によって示されるものとする。<br> 倉敷における工業化の端緒は倉敷紡績の設立である。倉敷紡績は地元の起業家が、地方有力者の大原孝四郎の招請に成功したことで設立された。この点で倉敷紡績創業時の大原家は、資本を提供する立場にあり、企業経営は地元の起業家たちが行っていた。倉敷紡績に対して、外部資本は渋沢栄一や三井物産の益田孝らが大原家に接触を図り、紡績機の選択や原綿の調達の等で支援を行った。 倉敷紡績が近代化・拡大に転じるのは、1906年に大原孝四郎の息子大原孫三郎が社長に就任してからであった。大原孫三郎は紡績機の更新や、労務管理の合理化、段階的な通勤職工制度への移行などの経営近代化を行った。さらに第一次世界大戦以降、大原孫三郎は工場の動力を電気に切り替え、あわせて自社発電にも取り組んだ。倉敷紡績の関連企業では、倉敷銀行を核とした銀行合同の推進、倉敷絹織の設立とレーヨン生産の開始などが行われた。以上のような大原家による倉敷紡績を中心とした投資活動によって、倉敷は工業化がすすめられた。ただし、こうした活動は、倉敷の市街地拡大に大きな影響を与えなかった。同時に、第一次世界大戦以降、倉敷への外部資本の参入はほとんどなく、逆に倉敷近隣の早島や玉島といった小都市や、瀬戸内海対岸の香川県高松市や観音寺町などの地方都市に倉敷紡績の工場が設けられた。これらの地方都市では、倉敷同様に寄宿舎の設置や病院などの福利厚生施設が併設された。倉敷紡績の活動は、むしろ倉敷近隣の地方都市における都市形成に影響を与えた。これと並行して倉敷紡績は本社機能を大阪に移転させ、同社の活動拠点は次第に大阪に重心が移るようになった。<br> 郡山工業化の端緒は、1878年に開削が着手された安積疎水からである。疎水の運営と開墾事業は地元有力者に大きな負担を要求した。しかし、疎水の維持管理にかかる政府との折衝を通じて,郡山の地方有力者たちは、明治政府の要人や財界人との間に一定の関係を構築することに成功した。これが工業化推進の要因となり、郡山における工業化の主体は地方有力者の資本(地元資本)と大倉財閥などに代表される外部資本の2系統によってすすめられることになった。まず1890年代、地元資本による製糸業への投資を通じて工業化は始まった。ただしその規模は小さく、同時期の倉敷と比較して工業化への対応は消極的といえた。郡山の工業化の転機は、1898年に地元資本と渋沢栄一、大倉喜八郎ら外部資本と地元資本の協業による郡山絹糸紡績株式会社の設立からといえる。 大正期に入ると、地元資本は金融や小売業の担い手になり、製造業は地元資本と外部資本の協業か外部資本単独という形態が確立した。この時期に郡山に進出した外部資本は、片倉製糸や小口製糸といった信州資本の製糸業と、日本化学や東洋曹達などの東京に本拠地を持つ化学系の企業であった。同時期、地元資本は、資本誘致と都市基盤整備を通じて郡山の工業化を推進した。前者の代表が郡山起業社であり、地元銀行の信用貸しによって株式投資を利用した積極的な企業設立と投融資が行われた。後者の事業としては、明治末年から始まった水道事業と郡山市街西部の土地区画整理事業がある。同事業は一義的には郡山の都市機能整備を目的としていたが、結果的に工場用地と工業用水の提供を行ことになり、大正期以降における外部資本の工場進出を支える要因の一つとなった。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205694372352
  • NII論文ID
    130005481529
  • DOI
    10.14866/ajg.2014a.0_175
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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