中国東北の農業開発

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書誌事項

タイトル別名
  • Agricultural Development in Northeastern China
  • 特に稲作の受容と拡大について
  • With special emphasis on the adoption and spread of rice farming

抄録

中国東北地方とは、黒竜江省・吉林省・遼寧省と内蒙古東部を含む、国土面積が約127万㎢、人口14,179万人(2005年)の地域。東北においては、気候条件は農業活動を制約する最も重要な自然的要素である。大陸性季節風気候で、南から北へ暖温帯・中温帯・寒温帯のように変化し、≧10℃の積算温度も南部の3,600℃から北部の1,000℃と減少している。そのため、南部では冬小麦・綿花と暖温帯果物等が、中部では春小麦・大豆・トウモロコシ・高粱・アワ・水稲・甜菜・向日葵・亜麻等が、そして北部では春小麦・馬鈴薯・大豆等がそれぞれ栽培できる。また海洋との位置関係から、降水量は東部の1,000mmから西部の300mmと減少し、気候は湿潤区・半湿潤区と半乾燥区と移行している。それに伴い、農業的土地利用は東から西へ農林区・農耕区・半農半牧区・純牧畜区のように配置している。<br> 東北地方の原始農業は6~7千年前まで遡ることができる。新石器時代に中原の漢族の文化が既に東北地方に伝えてきた、商周以降、漢族の東北移民により、中原の先進的農業技術を持ち込み、東北農業を促進した。漢族の影響および移民が南部から北部へ徐々に広がっていた。 清代の開墾禁止政策は1681年から1860年まで約180年間が続いた。1860年に開墾禁止政策が完全に崩壊され、関内から大勢の流民が柳条以北に押し寄せてきて、東北地方の農業開発は盛んになった。漢族の北上と同時に、朝鮮流民も相次いで吉林東部に流入した。1861年に松花江以北の黒竜江地区でも開墾が許され、それから各地に範囲が広がった。1911年までに黒竜江地区の肥沃な平野部では794万垧 (1垧は約0.92ha)の土地が開墾された。<br> 同時に、朝鮮半島から朝鮮族も流入した。19世紀60年から70年代にかけて、朝鮮北部に相次ぐ自然災害と不作 が発生し、飢餓に堪え兼ねた大量の住民がヤールー江対岸の中国に逃げ出した。その後更にヤールー江より西へ移動した。また、トマン江北岸も朝鮮流民の多い地域であった。1880年から延辺地区の全面開放に伴い、朝鮮族の流入は更に増え、1891年にトマン江北岸の越墾区 に朝鮮開拓民は約4300戸に達し、その後更に西と北へ拡大した。稲作を得意とする朝鮮族が流入してから、水の得やすい低地で水稲の栽培を試みた。ヤールー江上流の渾江流域は朝鮮移民による最初の水稲栽培地であった。1845年に朝鮮平安北道から約80戸の農民は渾江下流地域で土地を開墾した。その後、1875年に遼寧省桓仁県、1883年に柳河県、更に西へ北へと、1890年に樺甸市、1903年に永吉県で水稲栽培がみられた。さらに、松花江や牡丹江などまでに拡大し、水稲栽培の試みが東部の山地から東北平野の中心部まで広がった。また、朝鮮族による水稲栽培はヤールー江下流の丹東から南西方向へ拡散する動きもあった。この過程において興味深いことは、1880年に朝鮮族が東寧県で小綏芬河から引水して水稲を栽培したこと、1890年に鳳城県湯山城の漢族地主が朝鮮農民を雇い水田を開拓させたこと、同県の沙里寨の漢族も水稲を栽培し始めたこと、1906年に延吉県の朝鮮族が共同で延吉地域における最初の水利灌漑施設(用水路1308m)を作ったこと、申友景という朝鮮族が北海道の赤毛種を牡丹江地区で試験栽培したこと、である。<br> 一方、日露戦争後、日本から中国東北への移民が始まった。満州事変から1945年までに約27万の農業移民が中国東北地方へ送り出した。これに関して膨大な研究蓄積があるのでここで割愛する。<br> 中国東北地方では、本格的に水稲栽培を展開したのは改革開放後であった。中国の米づくりに多大な貢献をした二人の日本人農業技術者の存在が大きかった。中国の農民に「洋財神」と慕われた原正市は北海道で長年米づくりを研究した。また、「水稲王」と呼ばれた藤原長作は岩手県で寒冷地に強い藤原式栽培法を開発した。その熱のこもった技術指導で気候条件の厳しい中国東北地方に畑地育苗疎植法の普及を成功させた。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205694380288
  • NII論文ID
    130005481466
  • DOI
    10.14866/ajg.2014a.0_169
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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