三陸海岸中部における山麓緩斜面と津波からの避難・移転 (その1) 地形形成と集落用地への改変

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  • Geomorphic formation and artificial transformation of the piedmont gentle slopes along the tsunami-hazardous mid-Sanriku coast, northeastern Japan

抄録

1.山麓緩斜面の形成 三陸海岸の中・南部では,高位海成段丘が広い北部(宮古付近以北)とは対照的に,湾岸に小さな段丘状地形が点在するとされてきた.しかし,現実には段丘堆積物や旧汀線を確認できないものが多く,とくに花崗岩類から成る地域では,むしろ山麓緩斜面的な形状を示すところが少なくない.北上山地南半部の山麓緩斜面地形については,Wako(1963),赤木(1964),三浦(1968),菅原・高橋(1974),西村・宮城・桧垣(1980),田村・宮城(1992),吉木(2014)等の報告がある.それらも参考に,船越半島とその周辺の山麓緩斜面を調査し,次のようなことが判明した(概要は田村・瀬戸 2016): (1) 縦断勾配3~15度の緩斜面が,海抜70~90m付近で背後の急斜面から画然と区別される.なだらかな尾根状を呈する高位緩斜面と,その間から前面にかけて広がる,あまり開析されていない谷状の低位緩斜面とに分けられ,前者はさらに細分可能とみられる.(2) 高位緩斜面の地表下には,ほとんどの場合赤色土を発達させた深層風化花崗岩があり,風化角礫を含む層も一部に認められるのに対して,低位緩斜面は比較的新鮮な花崗岩角礫を主とする厚さ数m以下の堆積物で構成され,その基底は赤色風化断面を切っている.背後山地から続く開析谷の一部は土石流危険渓流に指定されている.(3) 低位面は,前面を完新世の海食崖に切られていることが多いが,延長が沖積層下底面に連続しているとみることができる.一方,上流山地内へは,多少開析された皿状の谷底面に連なる.  これらの特徴から,高位(尾根状)緩斜面は最終間氷期までに おそらく何回かに分かれて形成され,その後の温暖期と寒冷期に風化・開析と従順化を受けたと推定される.また,低位(谷状)緩斜面は,最終氷期に活発化した岩屑生産・移動の影響を強く受け,高位緩斜面を削って形成されたと考えられる.低位緩斜面の形成にあたり,深層風化を蒙った高位緩斜面の存在が好条件を用意したに違いない.高位緩斜面の形成過程はさらに検討を要する.   2.集落に用いるための地形改変 この種の緩斜面地形は,段丘地形の発達が悪い三陸海岸中・南部で,半農半漁集落の立地や,津波被災後の集団移転先として,利用されてきた.なだらかとは言っても 未開析の段丘面と異な り上記のような傾斜・曲率をもつ緩斜面を宅地や畑地に利用するには,ある程度の人工平坦化を要する.その様相を旧船越村の三集落について比較検討してみる.  大浦では明治津波(1896年)以前から緩斜面に小段を切って宅地・畑地が作られ,切り取った土砂を前面波食台に盛って狭い人工海岸低地を作っていた.船越では,地峡南端の浜にあった集落が明治津波で壊滅した後,西側山麓緩斜面上に低い段をもつ方形地割を設け,集団移転した.その東方の浜と背後の低地に立地していた田の浜では,明治津波で大きく被災した後に,船越との統合移転案の頓挫を経て,背後緩斜面末端の切土と隣接する沖積低地への盛土で一体となる平坦地を造成した.しかし,そこに集落が移転するのは昭和津波(1933)の後になった.また三地区とも,今回の津波被災後の集落一部移転・災害公営住宅建設がすべて山麓緩斜面で進められている.   3.地形改変対象としてみた山麓緩斜面 山麓緩斜面では,に示した形状と構成物質の特性から,に示した小規模な宅地や畑地を作る地形改変が人力でも行えた.現在進行中の災害復興事業では,この地区の山麓緩斜面で発生した花崗岩風化土が,中古生界から成り細粒土に乏しい大槌・釜石方面に運ばれ,盛土材に用いられている.各集落の移転行動の詳細は「その2」で紹介するが,とくに明治津波後の田の浜「新宅地」造成とそれが畑地であった実態は,1933年6月撮影の空中写真(内務省都市計画課(1934)掲載,撮影機関が日本空中写真作業合資会社であることを江川良武・金窪敏知氏からご教示)からよくわかる.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205694390400
  • NII論文ID
    130005635603
  • DOI
    10.14866/ajg.2017s.0_100152
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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