インド・アッサム州における多民族社会の存立構造

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  • Structure of multiethnic society in Assam, India

抄録

1. はじめに <br> インド北東地方のアッサム州の特徴として、①インド国内平均と比べて経済発展が遅れている(いわゆる条件不利地域)、②歴史的にアーリア系、モンゴロイド系(チベット=ビルマ語族、タイ語族など)の住民が移住してきて多民族社会を構成している、の2点が挙げられる。 <br> 既往研究および住民の間でも受け入れられている言説では、アッサム州は低開発で農業以外の目立った産業が育たないせいで、人々は貧しく民族間の対立が絶えないのだという説明がなされてきた。しかし、このような地域観はアッサム州の複雑な社会をはたして正当に評価したものであろうか。筆者は逆の視点に立脚し、アッサム州では社会の多様度が高いからこそ、数字上の経済発展に結びつかない、もしくは経済発展が必要とされない、という仮説を立てて検討したい。ネガティブに捉えられていた地域経済の停滞をニュートラルに捉え直そうという試みである。 <br> 地域固有の社会が経済を規定しているという視座はインド研究では特に目新しいものではない。柳澤・水島(2014)では、インドの農業発展の国内格差について、州によって大きく異なる社会構造が重要な意義をもつと指摘している。たとえば、比較的農業が発展している南インドのタミル・ナドゥ州はバラモンなどの有力階層の脱農業化の結果、下層階層の自立化が進んでいる。北インドのビハール州では農業経営に関心のない高位カーストが土地を所有し続けているため、技術革新が実現されていない。インド本土から離れたアッサム州の場合は、ヒンドゥー教社会の特殊性も分析の対象になりうるが、まずは多民族社会の構造を明らかにする必要があると考える。 <br> これまで筆者はアッサム州に居住する複数の民族(ないしはグループ)の関係性に着目して調査を進めてきた(浅田2014, 浅田2017)。その結果、ローカルな自然環境とそれを基盤にした生業活動によって、お互いが緩やかに紐帯しつつも空間的に棲み分けがみられることが明らかになってきた。本研究では、これまでと同様に生業活動に着目しつつも、各民族が空間的だけではなく社会的にどのような関係性を有しているのかを明らかにしたい。 <br> 2.調査地および調査手法 <br> 調査地域はアッサム州西部旧カムルプ県(バクサ県として2004年に分割した北側地域を含む)のブラマプトラ川北岸部である。この地域に居住する民族の中から、アホミヤ(在来のアーリア系ヒンドゥー教徒)、ボド(在来のチベットビルマ系民族)、ネパリ(外来のヒンドゥー教徒)、ベンガリ(外来のムスリム)を対象として、それぞれの民族が多数を占める村落において、世帯情報と生業活動に関するアンケート調査および聞き取り調査を実施した。調査は2015年8月から2017年3月までの期間に実施した。   <br> 3.結果と考察 <br> 4つの民族は、世帯収入源と活動範囲が大きく異なっていることが明らかになった。アホミヤは州内の都市でフォーマル部門に就職する者が比較的多く、ネパリはフォーマル部門に就職する者もいるが、州外へ出かける者も多い。一方でボドは日雇い仕事、ベンガリは大工などを主な収入源とするが収入は低く、その活動範囲も限られている。また民族によって、学歴や世帯の土地所有面積にも差がみられる。 <br> アッサム州に暮らす民族は移住してきた当初から、異なる生業を営むことで空間的だけでなく社会的にも住み分け術を身につけてきたと考えられる。そして現在も互いの収入源や活動範囲をずらすことで衝突を回避するという戦略をとっている。都市部のフォーマル部門だけでなく、数字には表れないインフォーマルな経済が民族の数だけ何重にも存在しているのがアッサム州社会の実態であると考えられる。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205694429184
  • NII論文ID
    130005635648
  • DOI
    10.14866/ajg.2017s.0_100112
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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