2014年7月梅雨前線による山形県南陽市の大雨被害と防災図の検証

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  • Heavy Rainfall Disaster in July,2014 and the Hazard Maps in Nanyo city,Yamagata Prefecture

抄録

1. 目 的 洪水ハザードマップをはじめ各種の防災図が全国的に整備されつつある。1地区あたり数十年に1回といった洪水被害例について既存の防災図の検証が行われる機会は多くないが、その作成にかかわる者は、防災図の分類基準や限界を検証し、補足すべき点を認識することが責務になる。<br>2. 2014年7月梅雨前線による山形県南陽市の被害   2014年7月梅雨前線性大雨は山形県南部(上山市中山)では7.09-10の24時間雨量185mm、最大1時間雨量54.5mmであり、最上川支川の吉野川沿いの南陽市では浸水約1200戸と推定された。周辺丘陵地ではいくつかの斜面崩壊と土石流が、上流では渓岸浸食が多く発生した。2013.7梅雨前線による大雨被害より大きく、今回の雨量はその約1.5倍であった。浸水範囲と深さを概査し、既存の3種の防災図の検証を試みた。<br>3.洪水被害地域の地形の特徴と土地履歴   吉野川(延長約30km)と織幡川(同約10km)の下流部であり、米沢盆地北縁に半径6km程度の複合扇状地のような平面形で、勾配8/1000程度の氾濫原面が広がっている。数条の旧河道がみえるが今回の溢流箇所ではない(ひとつは天正年間)。大正前期の1:50,000地形図では、市街地は宮内と赤湯のみであり、吉野川下流(約6km)の上半は無堤で水田が広い。下半(赤湯旧市街沿い)は天井川の性格を帯び、最下流外側には広い後背湿地(大谷地。中心に白竜湖)がある。昭和後期に宅地・業務地が宮内と赤湯の間の水田地帯に、さらには大谷地低地の縁まで進出した。今回の氾濫範囲はこれらの部分である。氾濫箇所は3つの低い橋付近からの堤防越流で、最大水深は1m未満であるが市街地の広範にわたり床上・床下浸水、泥が堆積した。<br>4.洪水ハザードマップの洪水被害予想評価 ・2008年公表の洪水ハザードマップ(縮尺1:14,000)の氾濫想定条件は50年に1回程度の時間雨量32.5mm、連続総雨量89mmであり、今回より小さ目であった。洪水ハザードマップは箇所を問わずすべての堤防が破堤した場合の最大の浸水範囲と深さを述べている。実際の浸水範囲と深さ想定はおおよそ妥当であった。ただし、吉野川の氾濫のみを想定していたため、大谷地低地(無住、農業被害あり。集水域は低い丘陵)の内水湛水は想定外だった。強雨と急な出水が深夜であり、早目の避難勧告とはならず、“にげどきマップ”とならなかった。 ・1次避難所も浸水範囲にあり、冠水した道路を横切っての移動も困難だった例が報道された。実感ある浸水深想定は複雑な地盤高の市街地では難しく、町内会レベルの対応が必要。<br>5.治水地形分類図1:25,000(未改訂版)の洪水被害予想評価  微地形分類に加えて2.5m間隔等高線が相対的に浸水深さと氾濫流下方向を示唆していたが、一般向けには翻訳が必要である。河川構築物の整備の記録になる。<br>国土調査1:50,000地形分類図(1983)の洪水被害予想評価 微地形の定性的区分は、洪水ハザードマップの予想浸水深(地盤高)によって検定された。橋による溢流地点が自然堤防の切れ目である可能性、最下流部では自然堤防上の低い堤防によって溢流が小規模で済んだことを説明する。<br>7.大雨による斜面災害の予想評価 ・国土調査地形分類1:50,000「赤湯・上山」は山形県方式として凹型斜面を付加記号で示していた。地すべり斜面の多い県内では例外的なごく浅い谷型斜面を図示していたが、いくつかで線状の斜面崩壊が生じた。<br>・市西部の土砂災害ハザードマップ2葉(2012)は具体的な避難経路も図示した優れた防災図であるが未評価。<br>8. 洪水ハザードマップの説明に際して  ・大縮尺であるが、市街地では表現内容に限界がある。住民自らつくる具体的な地図でなければ役立たない。そのときこの図の限界を正しく説明する必要がある。<br>・洪水ハザードップの説明付図に過去の災害の写真は採用されるが、旧版地形図や地形分類図が採用された例を知らない。地形分類図の低地の表現は過去(数)千~数百年間の形成史が複合された結果を述べているため、ここ百~数十年間の予想を(人工構築物の効果を含めて)直裁に述べる洪水ハザードマップの説明には採用されない。 ・本来の土地条件を説明するのに旧版地形図は造成前の土地の状態(無堤、無住、水部・・)を表現しているため、住民にもわかりやすい材料である。国土調査土地分類“土地履歴調査”は、中縮尺という制約はあるが、町内会レベルの避難地図づくりの際に利用されることが望まれる。 ・防災図類は、一般に印刷基図の等高線が薄く、土地の起伏を表現していないものが多い(気象庁2012.4防災啓発ビデオ“津波からにげる”も同様)。土地の起伏を意識して表現されることが望ましい。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205694530816
  • NII論文ID
    130005481576
  • DOI
    10.14866/ajg.2014a.0_52
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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