A comparative area study of disastrous floods in Osaka, Kyoto and Kobe in the 1930s

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  • 1930年代の大阪市・京都市・神戸市における大規模都市水害の比較地域研究

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Ⅰ はじめに<br> 災害を対象とした地理学的な研究では,災害事例を個別に扱う研究が主に積み重ねられてきた.これに対して,個別事例を扱うだけでなく総体として災害を捉える必要性も指摘されているが,その実践例は少ない.そこで,本報告では,第二次世界大戦前の大規模水害の代表例である1934(昭和9)年室戸台風(大阪市),1935(昭和10)年京都市大水害(京都市),1938(昭和13)年阪神大水害(神戸市)を比較し,当該時期の都市水害の特徴と,地理学から災害の時代性や地域性に迫る方法として災害の比較地域論の可能性を示したい. <br> Ⅱ 第二次世界大戦前の都市水害<br> これまでの都市水害研究では,戦前の事例は比較的大きな平野に位置する都市や内陸盆地都市の河川による洪水災害,急傾斜地をもつ都市のがけ崩れ災害に限られるとされ,特徴的な傾向は見出されてこなかった.そのため,高度経済成長期以降に顕著に認められる内水災害を都市水害の典型例として捉える傾向が強かった.しかし,戦前から戦後にかけて都市部を襲った大規模水害が多発しているにも関わらず,このような特徴をもつ水害の背景は十分に考察されていない. Ⅲ 方法 本報告では下記の順に論を進める.まず,水害被害額や死者数の推移から1930年代の水害の特徴を概観する.次に,各都市において発生したそれぞれの大規模水害について,災害記録や地形図,地形分類図などを用いて,主に地形と都市化の観点から被害の地域差とその要因を都市別に分析する.そして,各都市の被災要因の比較検討を通して,当時の時代性や被災地の地域性の観点から1930年代の都市水害の特徴を考察する. <br> Ⅳ 結果・考察<br> 3都市の水害を比較した結果,それぞれの都市で洪水災害,高潮災害,土砂災害と違いはあったが,地形条件による被害の地域差が明瞭に認められた.とりわけ,洪水災害や土砂災害では段丘や扇状地を刻む狭隘な開析谷中で,高潮災害では旧干拓地や埋立地で重度の被害が目立った.他方,氾濫原などは主に農地の浸水にとどまり都市水害としては限定的であった. <br> また,市街地化の時期による被害の地域差も明瞭であった.大阪市と神戸市では新市街地が旧市街地よりも重度の被害を受けていた.ただし,京都市では市街地化の時期と浸水域との間に明瞭な関連性は見出せなかった.こうした被害の地域差にみられる特徴は,以下のように整理できる. <br> (1) 時代性: 第一世界大戦後から第二次世界大戦に至る戦間期は重化学工業化が進行するとともに,1919(大正8)年に制定された旧都市計画法による都市計画事業もあって,周辺町村を組み込みながら大都市を中心に急速な都市化が進行した.また,急速な都市化によって住宅難や公害など都市問題が発生したのもこの時期であった.さらに,大阪市や神戸市でみられた水害の特徴は,1945(昭和20)年枕崎台風の呉市や1953(昭和28)年西日本大水害時の門司市(現北九州市)のような斜面地に広がる市街地を襲った大規模な土砂災害,1959(昭和34)年伊勢湾台風の名古屋市の沿岸部を襲った大規模な高潮災害と類似し,戦後直後の大規模な都市水害と同様の性格を有していたと考えられる.このようにして,戦前から戦後にかけて発生した大規模な都市水害は,この間に市街地化した新たな都市化地域が大型台風や集中豪雨の影響を受けたために生じたという同時代性を指摘できる. <br> (2) 地域性: 日本では戦間期に工業都市や港湾都市などで都市化が顕著に進行した.四大工業地帯に属するような工業都市は大規模な工場用地が臨海部に求められ,それが高潮災害への脆弱性を高めた.軍港都市などの港湾都市は平坦部分が少ないため斜面地への市街地化が顕著に進んだと考えられる.また,都市化の進行とともに山地の開発などもあり,それが土砂災害に対する脆弱性に拍車をかけた面もあったと思われる.他方,京都市に代表される内陸盆地都市への都市化の圧力は,工業都市の臨海部や港湾都市の山麓部に比べるとそれほど大きくはなかったと考えられる. <br> Ⅳ 結論 <br> 本報告では,1930年代に大阪市,京都市,神戸市で相次いで発生した大規模水害の事例を比較した結果, 1930年代の都市水害は沿岸部や山麓部など水害に対して脆弱な地域へ市街地が拡大した結果と理解できた.また,当該時期の都市水害の特徴は,近世以前の歴史的な市街地の洪水災害とも,高度経済成長期以降の内水災害を中心とした都市水害とも異なることが確認できた.すなわち,地形条件と都市化の進展との関連性が都市水害の時代性や地域性を特徴づけていることが明らかとなった.このように災害事例の地域間比較は,災害の時代性や地域性を特徴づける地理的要因を総体的に把握する上で,有効なアプローチであると結論づけられる.<br>

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Details 詳細情報について

  • CRID
    1390001205694571392
  • NII Article ID
    130005490203
  • DOI
    10.14866/ajg.2015a.0_100137
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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