岩手県山田町の避難所での食と心理と生活環境

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タイトル別名
  • Food, Psychology and Living Environment in the Refuge Life in Yamada, Iwate Prefecture
  • 東日本大震災の食事記録の解析と質問紙調査
  • Analysis of the dietary records and questionnaire survey in the East Japan Great Earthquake Disaster

抄録

【はじめに】本稿では、岩手県山田町での東日本大震災発災直後の「避難生活」について、避難所での食生活の栄養学的観点からの評価、現在の食生活や津波前後での心理的変化との関わりも含めて考察する。<br>【調査方法】<br>1)避難所における津波直後の食事調査 O地区の避難所では、2011年3月11日の夕食から約1か月にわたり、婦人会が中心に食事の準備を行い、食事記録を残した。この食事記録の解析と聞き取り調査から食事状況を評価した。また、O地区以外の山田町他地区の避難所滞在者数名の聞き取り調査も実施した。<br>2)質問紙調査 山田町仮設住宅在住の20~90代の男女56名に質問紙による調査を2015年11~12月に行った。一部高齢者には聞き取りにより代理記入した。質問は、震災直後3日間の食事内容や現在の食生活の内容、食嗜好の変化、震災前後での変化、身体状況、心理状況等に及ぶ。集計、解析はIBM SPSS Statistics ver.22を用いた。<br>O地区避難所の食事記録の解析】3月11日夕食から13日昼食まではおにぎり2個であり、13日夕食は海上自衛隊から配給された味付けご飯(缶詰)であった。飲料水は山水等であった。14日には、山火事消火作業との係わりで、前日より少し大きめのおにぎりが朝食から夕食に1個ずつ配られ、昼のみにニラ玉スープとキャベツの漬物を食べた。栄養面を解析すると、炭水化物、たんぱく質、脂質の3大栄養素では3月12日から15日までのエネルギー源は、ほとんどが炭水化物のみである。16日には鮭、カキ、肉等のおかずを食べられるようになったため、エネルギーが1700kcal以上、たんぱく質、脂質量も増加してきた。<br>  一方、他地域の聞き取り調査によると、3月11日夕食は食べられなかった。12日はおにぎりを一人半分ずつしか食べられなかった。生活面では避難所には人が多く、車で睡眠をとるしかなかったという。また、飲み水がないので、タンクに水をしばらく置いて、泥、虫などをしずめて飲んだといった内容を把握できた。<br> 【質問紙調査結果】<br>1)発災直後の食 津波直後の3月11日夜に「食べることができた」と答えた人は62.1%、「食べていない」が34.5%、「覚えていない」が3.4%であり、避難した場所の違いが「食べられる」「食べられない」の違いに直結しているように思われた。食べたものは、「おにぎり」が一番多く、次に「お菓子」「ごはん」「味噌汁」だった。入手経路は「炊き出し」「親戚・知人」の順であった。「飲料水やお茶等を飲むことができたか」では「飲むことができなかった」が51.7%であり、飲めた人は「井戸水や沢の水を飲んだ」と答えている。その他では、「自分でペットボトルを持っていた」、「一緒に逃げた子供さんがリュックにもっていた水をキャップ1杯ずつ5,6人で飲んだ」との自由記述もあり、飲料水に大変困っていた地区の存在がわかる。3月12日には74.1%、13日には77.6%が食べられた。しかし、食べられた状況下でも「食べていない」と回答している人もおり、被災後の心身の状態との関わりで食事すらできる状況ではなかったことが推察される。<br>2)仮設住宅における食生活、身体状況、生活環境について 震災前と現在の食べる量の変化に関する質問では、「食べなくなった」割合は肉で22.4%、魚で12.1%であった。<br>  一方、食料品備蓄は、震災前「備蓄をしていた」27.6%から現在「備蓄している」41.4%に増加しているが、全体の半分以下の割合である。<br>  「体調」では「震災前に悪かった」割合が8.6%であったが、「現在体調が悪い」割合は31%に増加しており、特に、現在「イライラする」割合が高い。睡眠でも現在「あまり眠れない」割合も多かった。<br>3)心理状況 震災前に比べ、現在では「なんでもないことがおっくうだ」と感じる割合が増加していた。「心配事や困り事があるとき心配してくれる人がいるか」という質問では、震災前に比べ、現在では低下していた。「先行き明るいかと感じるか」では、「全く感じない」と「あまり感じない」の割合が震災後増加している。このような割合の震災前後での変化に注目すると、現在「身近な親しい人の相談にのっているか」と「手助けなしに外出できるかどうか」については正の相関がみられた。また、現在「先行き明るいと感じるか」については、「家計のやりくり」との間で有意な正の相関が、「全体的な生活満足度」との間でも有意な正の相関がみられた。<br>【おわりに】栄養学的な評価に基づいたこのような「食の震災記録」は、災害での応急対応時の「食に関する備蓄や食材供給」の客観的検討資料としても 活用できる。「災害援助物資」配給の実態も解明しながら調査を進め、発災直後の混乱状態の中での「避難生活」をより総合的に評価したい。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205694641408
  • NII論文ID
    130007017425
  • DOI
    10.14866/ajg.2016s.0_100097
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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