生業の専業化に関する考察

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タイトル別名
  • The specialization of subsistence activities
  • タイのモン村落における家畜飼育の事例
  • A case study of livestock husbandry in Hmong villages, Thailand

抄録

1 はじめに<br> 時間の経過とともに人間は生き方(生態)を変えることがある。伝統的な生業を継続して行い、変化の少ない生き方をしているように見える民族集団においても、過去との比較や、地域を比較したときに確認できる差異は、私たちに生業の変化とその要因の検討材料を提供する。<br> 生業の変化にはいくつかの様態がありえる。例えば多様化、単純化、専業化などである。アジアの稲作を中心とする農村の生業は、自給的な様態から、効率的な換金を主目的とした、より商業的な様態への変化が近年顕著である。<br> これまで筆者は東南アジア大陸部の山地に暮らす少数民族であるモン(Hmong)族を対象に、生業の継続性と多様性に関する研究を行ってきた。先にタイにおけるモン村落の事例比較から、生業における域内多様度を検討した(Nakai 2013)。その際に、大部分の村落で伝統的な小規模家畜飼育が継続されるいっぽう、都市近郊の一部の村落において豚飼育が専業化する傾向を指摘した。本研究では豚飼育が専業化する過程とその要因の検討を目的として、タイのペッチャブーン県KN村の事例から考察する。<br><br> 2 調査対象<br> KN村はピサヌローク市街から車で約1時間程度の距離に位置する。集落標高は約680mであり、周辺はなだらかな高原地帯である。KN村は1980 年代半ばに成立した。<br> タイにおいてモン村落は、北部を中心とする13県に253村が分布する(MSDHS, 2002)。ペッチャブーン県には23村が存在するが、KN村は実質11村の集合体であり県のモン村落の半分を占める。KN村の人口は2014年の調査時に約5000人を示し、 特異な規模である(タイのモン村落の標準的な人口規模は約1000人)。<br>  <br> 3 結果と考察<br> 本研究では一部の世帯により大規模かつ専業的に豚飼育を行う3つの事例(A氏、B氏およびC氏)を確認した。事例では大型精米機の導入が共通の前提であり、精米機の導入とそれに伴う潤沢な米ぬかの確保、そしてその豚餌への利用が成立してはじめて大規模飼育が開始されていた。<br> KN村では約20年前から大規模な飼育を行う一部の世帯が出現し、豚は儀礼等に備えて各世帯で日常的に飼育しておく存在から、必要時に購入して利用する存在へ次第に変化した。この意味において、KN村ではモンの伝統的な生業の1つであった豚飼育が、一部の大規模な飼育者により専業的に行われる状況に変化したといえる。<br> 本事例は村内において機械の導入により生産性が向上した部門が現れて専業化を進め、他はその影響により生産をやめるに至ったことを示す。これは豚の利用に伴う調達が効率化の論理に沿って最適化する過程を、人の生き方の変化として確認したとみなすことができるであろう。<br><br> 文献<br>Nakai, S. 2013.Intra-regional variety of subsistence activities: A case study of Hmong hillside villages in northern Thailand. Abstracts of International Geographical Union 2013 Kyoto Regional Conference.<br>MSDHS 2002. Highland communities within 20 provinces of Thailand, 2002. MSDHS: Ministry of Social Development and Human Security, Bangkok. (in Thai)

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205694728192
  • NII論文ID
    130005635553
  • DOI
    10.14866/ajg.2017s.0_100055
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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