東シベリア連続永久凍土帯における活動層の熱・水環境変化の長期変動

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  • Long-term variations in hydro-thermal conditions of active layer in continuous permafrost zone, eastern Siberia

抄録

1. はじめに <br> 20世紀後半以降の温暖化に伴い、寒冷圏陸域の永久凍土地温も同調して長期的に上昇傾向にある。その傾向は気候帯によって地域性があり、北東ユーラシアでは、北極沿岸のツンドラ帯から、カラマツが広がる北方林、山岳域、さらに南部のステップまで、景観の多様性に応じて地下の凍土環境変化が異なる。最近の気候変化に応じた永久凍土変化は、“表層付近の凍土層の融解に伴う活動層の深化”、が重要なプロセスになる。すなわち、熱的環境の変化とともに、活動層内に貯留される土壌水分量の変化が、植生の蒸発散や炭素収支の変化をもたらして気候や水文の諸過程にフィードバックする。すなわち、永久凍土の融解や温暖化は単に気候変化の指標ではなく、寒冷圏陸域の相互作用のサイクルに不可分な現象となる。このような活動層深化に伴う熱・水環境変化過程の理解には、気候帯や景観ごとの観測とそれに基づく凍土過程の数値モデル化によって、現状の診断や将来予測が可能になる。<br> 本研究では、東シベリアでの過去の長期観測データを精査し、景観や気候帯の違いによる凍土表層の地温変化の地域性を明らかにするとともに、凍土環境(活動層変化)の評価に向けた陸面モデル解析の適用によるに結果について報告する。  <br><br> 2. データならびに方法<br> 本研究では、All-Russian Research Institute of Hydrometeoro- logical Information-World Data Centre (RHIMI-WDC) が提供している、東シベリア(北緯50度以北、東経80度以東)の49地点の1930~2010年の気温、1977~2008年の1.6mと3.2m深の地温観測データを用いた。 凍土過程を含む陸面モデル(CHANGE:Park et al. 2013)によって、北方林の陸面状態を入れた1901~2009年 のシミュレーション結果を用いた。モデル入力気象データはWater and Global Change (WATCH)のWATCH Forcing Data 20th Centuryを用いている。<br><br>3. 結果<br>北極域では、最近の温暖化の以前に20世紀中盤(1930~40年代)の温暖化が知られている。地域ごとの気温偏差を1935-40年と、205~09年の2時期で示すと、まず20世紀中盤の温暖期では、北極海沿岸のツンドラ地帯に共通して東部+0.6~西部+1.1℃の強い温暖偏差が現れていた。一方で、中部の北方林地域や南部山岳域のシグナルは弱い。これは、20世紀中盤の温暖期が北極高緯度地域でのみ卓越していたという傾向(Johannessen et al., 2004)と一致する。それに対して、最近では、北東ユーラシア全体が顕著な温暖偏差となった。全体が+0.7℃以上の偏差であり、レナ川中流域からツンドラ地帯にわたる広域で強い偏差を示している。 <br>続いて、レナ川中流域の地温観測データと地温と土壌水分のモデル計算結果の時系列を比較した。地温から、20世紀中盤の温暖期の影響はなく、観測・モデルとも期間を通じて緩やかに上昇する傾向にあった。10年程度の周期的な温度上昇、下降がそれぞれ認められたが、1980年代以前はその位相は合っていない。しかしそれ以降の変化はほぼ同調しており、特に直近の2000年以降に最高値がともに現れていた。活動層内土壌水分量の計算結果によれば、最近5年は長期的に見ても極大期に相当しており、気候温暖化に加えて、降水量増加による土壌の熱的性質変化の影響によって地温が顕著に上昇した観測事実(Iijima et al. 2010)と一致する。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205694772864
  • NII論文ID
    130005473591
  • DOI
    10.14866/ajg.2014s.0_100056
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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