目的的見地からみた地理教育カリキュラム

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タイトル別名
  • The Curriculum from a Geography Educational Aim's Points of View
  • ―「地理歴史科」の地理―

抄録

そもそも地理教育は何を目的にいとなまれるのだろうか。この問いかけを出発点に、あるべき地理教育カリキュラムの方向性を考えてみたい。高校の場合、地理は地理歴史科にふくまれるから、この点についても踏まえておく必要がある。  学校教育の目的・目標を記した最も基本的な文献に学校教育法がある。その第51条は、高等学校における教育の目標を次の3点においている。  1 義務教育として行われる普通教育の成果を更に発展拡充させて、豊か  な人間性、創造性及び健やかな身体を養い、国家及び社会の形成者とし  て必要な資質を養うこと。  2 社会において果たさなければならない使命の自覚に基づき、個性に応  じて将来の進路を決定させ、一般的な教養を高め、専門的な知識、技術  及び技能を習得させること。  3 個性の確立に努めるとともに、社会について、広く深い理解と健全な  批判力を養い、社会の発展に寄与する態度を養うこと。  これらは学校教育全般をつうじて追求されるべきものだが、地歴・公民教育がになうべき事項も多くふくまれている。そしてそのいくつかは、学習指導要領に具体的な文言のかたちで取り入れられてきた。  これらの理念の実現に向けて地理教育が果たすべき役割を、地理学の本質や地歴・公民教育とのかねあいから要約する。主に以下の3点が挙げられよう。 _丸1_ 諸問題を具体的・現実的な「地域」において検討すること。公民や歴史は、ともすると抽象的・観念的に物事を理解しがちだが、地理はあらゆる授業場面で、個々具体的な場を取り上げて説明するところに特色がある。地理の対象は、生身の、血の通った現実世界である。 _丸2_ 個々の問題検討において、地域の「スケール」を意識させること。ごく単純化していえば、人びとは郷土・国土・世界という三つのスケールの世界に生きている。ある一つの問題は、それぞれのスケールの地域に別のかたちで影響を及ぼし、相互に関連しあって問題を複雑化している。大小の地域を分解して扱うのでなく、あらゆる問題を重層的・複合的にとらえさせることが大切である。 _丸3_ 個々の問題検討において、「自然と人間」の相互の影響関係に着目させること。地歴・公民教育は人間科学である側面が強く、理科はいうまでもなく自然科学的である。そのなかで地理は、両者を別個にとらえるのではなく、つねに結びつけて考えるところに大きな持ち味がある。  目的的見地からみた場合、地理の存在意義は、以上3点に収斂されよう。これらは地理に与えられた、地理固有の見方・考え方ということができる。こうした知識・理解・技能は、他の教科・科目で代替されうるものではなく、地理教育が存在しつづけなければならない大きな根拠である。地理はこうした自らの持ち味を発揮し、学校教育法のいう高校教育の目標実現に寄与しなければならない。  つぎに新学習指導要領にそくして考えてみよう。世界史が必修を継続し、一部自治体が独自に日本史の必修化を準備している。1989年にはじまった実質的な地理の選択化で、すでに筆者の教室では高校地理の既習者はほぼ1割内外にまで低下している。今後はますます履修者を減らす懸念がある。  その一方で、歴史は地理への接近を強めている。目標や内容の取扱いにおいて、「地理」の語が多用されるようになってきている。しかし、例えば世界史Aは「現代の諸課題を歴史的観点から考察させること」、日本史Aは「現代の諸課題に着目して考察させること」を目標に掲げるが、地理を履修せずに(すなわち上記_丸1_~_丸3_の観点を欠いたままで)「現代の諸課題」を考察することがはたして可能なのだろうか。  地理教育カリキュラムは、ESDや地域参画や防災安全といった、新しい教育課題に応えることももちろん大切である。と同時に、「地理歴史科」という旧来の枠組みのなかで、歴史学習の内容をより深く理解させたり、目標実現の手助けをしたりする教育内容の開発が必要である。地理は人間を取り巻く横糸、歴史は縦糸であり、その交差するところに現代社会があるからである。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205694810240
  • NII論文ID
    130007017539
  • DOI
    10.14866/ajg.2011s.0.273.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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