東京特別区におけるジェントリフィケーションに関する地代論的考察

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  • Gentrification Processes in Tokyo Wards from the Viewpoint of Rent Theory

抄録

 東京大都市圏の拡大は,一旦都心部に流入した人口がライフステージの変化に伴って,段階的に居住地を郊外に移動させていく過程で生じたとされる。一方,人口とともに集積した資本は都心部の商業機能を高め,増大した地代は地価を大きく引き上げた。その結果,都心部の人口が減少する空洞化が生じたが,1970年代以降はマンション建設による住居機能の高度化が進み,東京特別区の転出超過は縮小された。バブル期の地価急騰により,東京特別区の転出超過は再び拡大したが,バブル崩壊後の地価下落が都心部のマンション開発を再加速させ,2000年代以降,東京特別区の人口は増加傾向にある。2010年の国勢調査報告によれば,東京特別区の人口増加率は5.4%で,同地域の空間的構造が居住機能を中心に大きく変容していることが推測される。そこで,本研究では,地価分布の地域的特徴と住民属性との関連を時系列的に観察し,東京特別区に見られるジェントリフィケーションの発生過程とその特徴を明らかにする。 <br> まず,2000年,2005年,2010年の国勢調査報告から,町丁別に各年次間の人口増加率を算出すると,2005年,2010年共に高い人口増加率を示すのはJR東京駅東側に位置する中央区の町丁であった。また,2005年にはマイナスの増加率を示したものの,2010年にはプラスに転じた町丁は北東部の足立区に多く見られ,その逆の傾向を示した町丁は南西部の港区に多く見られる。東京特別区内の土地利用は既に飽和状態にあり,人口増加は高層マンションの建設による居住機能の高度化によるところが大きい。このような町丁ではマンション建設地以外の土地に旧住民が残留し,新旧住民の混住が進んでいる。ただし,港区内の町丁については「5年前の居住地を現住所とする人口」の比率が低いわりに,人口が減少しており,新旧住民の入れ替わりが推測される。 従業上の地位については職業分類が改訂になったため3年次通じての比較は難しいが,大きな変更のなかった「管理的職業従事者」の比率を見ると,2000~2005年において港区,渋谷区内の町丁で顕著な上昇が見られた。<br> 次に,JR東京駅を中心とする半径60km圏を設定し,『地価公示』を用いて2000年,2005年,2010年における全標準地に対する1kmごとの距離帯とその平均地価との関係を表す近似式を求めた。両者の関係は原点に対して凸の累乗近似曲線となり,いずれの決定係数も0.95を超える高い説明力を有する。ただし,新宿副都心の存在から,5~8km圏において平均地価と予測値との間に大きな乖離が現れた。近似曲線の各年次間の変化を見ると,5~8km圏を変曲域とし,2000~2005年においては周辺に向かっての下落,2005~2010年においては都心に向かっての上昇が観察された。また,住宅地標準地に限定した近似式を導出すると,全標準地を対象にした結果とほぼ同じ内容になるが,5~8km圏において現れた平均地価と予測値との大きな乖離が無くなり,変曲域が若干外方に移動する。<br> 全標準地を対象に導出した近似式から得られる予測値と各標準地の地価との残差を求め,予測値を大きく上回る,あるいは下回る標準地を地図上にプロットしてみると,2000年においては予測値を上回る標準地が都心部を中心に分布していたが,2005年,2010年には一転して中央区の地価が予測値を大きく下回るようになる。東京大都市圏全体で見ると,2000年代の地価変動には従前とは異なる多様性が指摘できる。このような圏域全体の地価変動の中で,都心部の地価が相対的に低く見積もられるような状況が生じ,それが都心部のマンション開発に繋がったと考えられる。一方,港区を中心とする住民の入れ替わりや「管理的職業従事者」比の伸びは,住宅地標準地を対象に導出した近似式に基づく分析結果から説明される。同近似式から得られる予測値と地価との残差には2000年代を通じて大きな変化はなく,南西部においては予測値を上回り,北東部においては同値を下回るといった方向偏奇が見られる。これは南西部の町丁に高級住宅街としてのイメージが定着していることを意味する。同地域の人口動態は,イメージや景観によるステイタスを指向する階層が引き起こしたものとと考えられる。<br> 先行研究の言葉を借りれば,中央区で観察された変容は生産サイド,港区で観察された変容は消費サイドから説明されるジェントリフィケーションと言える。いずれも経済的最上位階層に限定された特異な人口動態であるが,前者は商業地区の変容で,土地評価を相対的に上昇させたのに対し,後者は住宅地区の変容で,土地評価に関しては,高評価の維持に作用した。これらは明白な衰退地区が少ない東京特別区で生じた特徴的な現象であり,それぞれに固有なメカニズムによって説明される。<br><br>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205694873984
  • NII論文ID
    130005473682
  • DOI
    10.14866/ajg.2014s.0_100027
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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