ジンバブウェの商業漁業における「現地化」

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タイトル別名
  • 'Indigenization' within Commercial Fishing in Zimbabwe
  • 植民地化の経験とインフォーマルな実践の混淆
  • Hybridity of Colonial Experience and Informalization

抄録

1 はじめに<br>南部アフリカには、入植型の植民地支配を経験したことにより、その政治・経済構造に植民地的遺構を引き継いでいる国々が存在する。本研究が対象とするジンバブウェもそのひとつである。  ジンバブウェ政府は、1980年の独立以降、白人-黒人間の資源の不平等な分配と経済格差の是正を目指してきた。現政権は2000年以降、白人入植者から一部強行的に商業農地を収容し、黒人農家に再分配するという「土地改革」を実施し、経済の「現地化」を推進してきた。農業が黒人人口の多くを支える産業であるため、土地改革についてはそのプロセスへの評価、その後の動向について社会的・学術的な関心が寄せられてきた。一方、農業以外の部門における「現地化」の過程や、その影響は依然として不明な点が多い。  そこで本研究は、植民地政府によって建設された人造湖(カリバ湖)において、白人入植者らが商業化してきた漁業の事例を提示したい。この商業漁業部門では、「現地化」の言説のもとで白人事業者から黒人事業者に漁業パーミットの再分配が実施された。本研究では、商業漁業の歴史的変遷を、特にアクターの特徴とアクター間関係(協働性)に注目して明らかにする。そして、漁業パーミットの再分配、すなわち「現地化」が商業漁業にどのような影響をもたらしたのかについて検討する。   <br> 2 方法  <br>調査はジンバブウェ共和国マショナランドウェスト州に位置する地方都市カリバにて、2013年6-8月、11-12月、2014年11-12月に行った。調査地はカリバ湖の沿岸に位置し、カペンタ(Limnothrissa miodon)と呼ばれるニシン科の小魚を獲る商業漁業の拠点である。本研究では、カペンタ産業を対象として関連事業者への聞き取り調査を行った。また、漁業パーミットを取り仕切るジンバブウェ国立公園・野生動物保護庁における聞き取り調査と資料収集を行った。 <br> 3 結果と考察<br>調査の結果、カペンタ産業はその特徴から3つの時期(①1970年代初頭から1984年、②1985年から2000年、③2000年以降)に区分された。カペンタは1960年代にタンガニーカ湖から導入された。立ち上げにあたる第一期では、南アフリカ企業や国内外の白人起業家らがこのビジネスに参入し、漁法を確立していった。この時期、白人事業者らは生産者組合を結成し、組合としての大口取引や部品の共同購入などを行っていた。  独立後の第二期には、政府の支援を受けた黒人事業者が、協同組合という形で参入し始めた。これらの初期黒人事業者層は、白人事業者らが立ち上げた生産者組合に入ることを拒否し、独自の生産者組合を組織した。このことにより、「白人−黒人」という対立的な構図が現れた。  この対立関係は、第三期に実施された「再分配」(白人事業者の操業漁船数を減らし、黒人側に分配する)の実施によってピークを迎えた。再分配の結果、退役軍人、与党関係団体、一部の協同組合と個人起業家などに新たなパーミットが与えられた。また、再分配にともない、パーミット所有者が他者にパーミットを貸しだすことを許可する新たな制度が設けられた。パーミットの貸し借りが可能になったことは、従来よりも商業漁業への参入を容易にした。その結果、利害関係の異なる多様なアクターが乱立するようになった。  このような状況下で、新規事業者たちの間には、インフォーマルな雇用関係が創出されていた。また、アクターの多様化にともない、既存組織は弱体化したが、事業者らは「白人−黒人」という枠にとらわれない個別の協働関係を構築していることが明らかになった。そのため、「再分配」自体は「白人から黒人へ」という直線的なプロセスと捉えられるが、実際には、入植者が築いてきた基盤との連続性や、現在の事業者たちのインフォーマルな実践が複雑に混ざり合い、現在の商業漁業が成り立っていると考えられる。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205694902528
  • NII論文ID
    130005489800
  • DOI
    10.14866/ajg.2015s.0_100067
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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