インド山岳州における工業団地開発と企業集積要因

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書誌事項

タイトル別名
  • Development of Industrial Area and Factor of Industrial Agglomeration in the Mountainous State
  • A Case Study of Baddi Area, Himachal Pradesh, India
  • ―ヒマーチャル・プラデーシュ州バディを事例として―

抄録

研究目的 1990年代以降,インドでは大都市とその郊外で工業立地が進み,同国の経済発展を牽引してきた。一方,工業化が遅れている山岳州では,2000年代から中央政府が産業政策の推進に乗り出し,各種の優遇措置が適用されている。こうした政策などに伴い,近年は北部山岳州(ヒマーチャル・プラデーシュ州,ウッタラカンド州およびジャンムー・カシミール州)で工業立地が進んでいる。<BR> 本発表は,ヒマーチャル・プラデーシュ州(HP州)のBaddi Barotiwala Nalagarh地域(バディ地域)を取り上げ,同地域における1)工業団地開発の状況,2)企業進出の実態,3)産業集積地域の形成要因を明らかにすることを目的とする。バディ地域はHP州で最も工業開発が進んでおり,ウッタラカンド州のハリドワールやパントナガールと並ぶ北部山岳州の主要工業地域である。現地調査は2010年9月に実施した。<BR>HP州の工業開発 インド中央政府は山岳部11州を「特別カテゴリー州」と位置付け,各州に対して産業政策を実施している。HP州とウッタラカンド州に対しては,2003年から工業以外の産業も対象とした「ウッタランチャル・ヒマーチャル産業政策」を展開している。この政策は,物品税・法人税の免除,設備投資への補助に加え,ローカルな資源活用と雇用創出の可能性を有する特定の「推進産業」の立地促進と,環境負荷の高い産業の抑制という産業別の政策を特徴とする(友澤,2008)。中央政府の動きを受けて,HP州政府も2004年12月に新産業政策の実施を発表した。これは,地域別・産業別に優遇政策を実施するというものである。すなわち,州境からの距離や工業の進展状況などを判断材料にして,県以下の詳細な地域レベルで州内を3つのカテゴリーに分類し,それに応じて税制恩典などが付与される。このほか,26の指定産業に該当する企業や,創業者が指定カーストや指定トライブ,女性などであったりする場合も,立地するカテゴリーに応じて税制優遇や補助金の支給などが受けられる。こうした優遇政策の実施により,HP州では企業進出が増加したが,その多くは実際の条件不利地である山岳部ではなく,比較的条件の良い州南部の平野部に立地している。<BR> バディにおける工業団地開発と企業集積の要因 HP州南部に位置するバディ地域では,10の工業団地・地域が造成されている。開発面積は1,094エーカーで,工業団地・地域内に1,453の工場が立地し,従業員56,339人が雇用されている(2010年時点)。立地企業は,「推進産業」に該当する医薬品産業や医薬品包装品製造などの関連産業,ミネラルウォーター瓶詰業が卓越するほか,電機産業や化粧品産業なども多い。なかでも,近年インドで成長の著しい医薬品産業とその関連産業が優遇政策と自然環境の良さを理由に進出を伸ばしており,それらが340社(23%)を占める。<BR> 同地域は南部にシワリク丘陵,北部にヒマラヤ山脈が控え,中央部をインダス川の支流が流れる平野部である。友澤(2008)は,ウッタラカンド州における工業団地がヒマラヤ山脈前縁部の平原地帯に集中している要因として,当該地域が州内における仮想的な低操業コスト地帯となっていることを指摘している。HP州をみると,バディ地域は同州における低操業コスト地帯に該当し,工業用地として最適である。同一の産業政策と類似した地形的条件が,両州に共通した工業開発戦略をもたらしている。<BR> しかし,帯状に連なるHP州の低操業コスト地域のなかで,特にバディ地域において工業団地開発が集中し,企業集積が進んでいるのはなぜであろうか。これには,北部インドを代表するパンジャブ州およびハリアナ州の2つの州都であるチャンディガル市との近接性が関係している。聞取り調査により,両市は自動車で約1時間の範囲内にあることから,バディ地域に立地する企業のスタッフクラス以上の中間層がチャンディガル市中心部に居住する志向を有していることが明らかになった。また,バディ地域は低操業コスト地域の中でも州都シムラに近く,州内からみても立地条件が優れている。そうした利便性がバディ地域における工業団地開発とそこへの企業集積を促進する要因となっていると捉えられる。<BR> バディ地域は,優遇措置が受けられる山岳州にありながら政治・経済都市チャンディガルの郊外に位置し,さらに自然環境の良さから近年成長の著しい医薬品産業および同関連企業の進出が活発化したことによって産業集積が進んでいる。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205694957568
  • NII論文ID
    130007017629
  • DOI
    10.14866/ajg.2011s.0.58.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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