山岳州ウッタラカンドにおける工業化の進展とIIEハリドワール
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- 友澤 和夫
- 広島大学
書誌事項
- タイトル別名
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- Industrialization in the mountainous state of Uttarakhand and the development of IIE Haridwar
説明
1.研究の背景と目的<BR> 2000年代のインドにおける工業立地には、デリーやチェンナイ、プネーなどの大都市の郊外での進展と、「特別カテゴリー州」に指定されたウッタラカンド州やヒマーチャル・プラデーシュ州といった、北部山岳州での展開という2つの傾向が認められる。前者は、経済自由化にともない、立地における制限緩和を受けて、1990年代に顕著となった現象の延長線上にあり、大都市工業地域の外延的拡大を引き起こしている。後者は、2000年代初期に、後進州での産業振興を目的として中央政府が導入した恩典制度を主たる誘因とするものであり、新しい現象と捉えられる。本発表は、後者の現象が最も顕著に発現しているウッタラカンド州に着目し、以下の3点を明らかにすることを目的とするものである。1)ウッタラカンド州における工業化進展状況の把握、2)同州を代表する工業団地であるIIEハリドワールおよび立地企業の全体的特性の把握、3)同工業団地を代表する大規模企業ヒーロー・ホンダ社の立地戦略と随伴して立地したベンダーへの接近である。なお、本発表にかかわる調査は2010年9月に実施した。<BR> 2.ウッタラカンド州における工業化の進展<BR> ウッタラカンド州は、2000年にウッタル・プラデーシュ州から分離して設立された州であり、中央政府による「特別カテゴリー州」への恩典制度の発足に対応して、積極的な工業開発を実施している。具体的には州インフラストラクチャー工業開発公社(SIDCUL)を設立し、大規模な工業団地を開発して、それを受け皿とした工業立地を推進している(友澤、2008)。Annual Survey of Industriesによれば、制度発足時の2003年度において同州に所在する工場は679、従業者数は41,561人、粗生産額は725億ルピーに過ぎなかったが、2007年度には工場数1,417、従業者数129,585人、粗生産額3,307億ルピーとなり、短期間のうちに急速に工業化が進展したことが分かる。ただし、この間の工業立地は地域的には極めて偏ったものであった。2004年~2010年8月までの大規模工場(163)の立地先をみると、デヘラー・ドゥーン県(6)、ハリドワール県(70)、ウダム・シング・ナガール県(87)の3つに限られ、とくに後二者の数が傑出している。両県は平原部に位置し、工場誘致において有利な条件を有しているため、工業団地開発の場として州政府によって排他的に選択されたことによる。このように平原部の2つの県とそれ以外の山間地域に所在する県との間では、工業化という点で大きな格差が生じつつある。この点に配慮して州政府は、山間県での工業立地に対して2008年度より独自の制度を設けたが、実際の効果は得られていない。<BR> 3.IIEハリドワールの開発と工業立地<BR> ハリドワール(2001年人口17.5万人)は、ヒマラヤ山系から流れ出たガンガーがヒンドスタン平原に注ぐ位置にありヒンドゥー教の聖地として知られる。当地における工業立地はバーラト重工業が先行し、IIEハリドワールもその敷地の一角を州政府が購入して開発したものである。開発面積は2,034エーカーであり、立地工場数は約540と、IIEパントナガールと並んで同州最大級の工業団地である。<BR> 4.ヒーロー・ホンダ社の立地とベンダー企業<BR> 同工業団地では、ヒーロー・ホンダ(HH)社の規模が傑出している。同社は、本田技研と現地のヒーローグループの合弁企業であり(合弁解消を決定済み)、世界最大の生産台数を誇る自動二輪車メーカーである。デリー首都圏地域(NCR)内のグルガオンとダルヘラに工場を有していたが、生産能力の限界に直面したことから第3工場の設立を企図していた。複数の候補地の中から、確保できる面積の広さと、デリーへの近接性に最も優れる当地への進出が2006年に決定された。生産能力は6,000台/日であり、最新鋭の生産システムが導入されている。2008年4月の工場稼働時にはNCRより部品を配送していたが、調査時には部品の州内調達率は約75_%_に向上した。それは、同社の一角に開発したベンダーパークに7社が進出したこと、そしてヒーローグループの不動産会社がIIEハリドワールの近郊に2つの工業団地を開発し、そこには24社が進出したことが大きい。これらベンダーとHH社の間では、ミルクラン方式による部品の配送がなされている。
収録刊行物
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- 日本地理学会発表要旨集
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日本地理学会発表要旨集 2011s (0), 57-57, 2011
公益社団法人 日本地理学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205694958336
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- NII論文ID
- 130007017630
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可