倉敷美観地区における観光地ライフサイクルと地域資源のマネージメント

書誌事項

タイトル別名
  • The Tourism Area Life Cycle and the Management of Regional Resources : A Study of Kurashiki Bikan Historical District

説明

1.研究目的<BR> 産業革命における工業化を契機に労働者階級の労働形態が変容し,労働の時間と対比した余暇の時間が形成された.また,同時期に交通インフラの整備が進められ,観光活動は多くの人々に広く享受されるようになった.このように時空間の再編により観光活動は発展してきた.また,観光活動の活発化と共に観光地間競争が生まれ,各観光地は独自の魅力を保持し,観光客数を持続・増加していくことが重要な課題となっている.<BR> 本研究ではバトラーの提唱した観光地ライフサイクル(以下TALC)論を倉敷美観地区(以下美観地区)に応用し,観光地としての盛衰を考察する.バトラーは製品サイクルを応用し,観光地の盛衰を観光客数と時間軸を基にS字曲線で描いた.また,観光地の変遷を観光客数,観光客のタイプ,地域の反応,事業者の介入等の違いから6段階で示し,観光地の資源の限界と管理の重要性を示した.TALC論の優れた点としてこれまでの観光地発展段階論を整理し,観光地の盛衰を明快に図示したことが挙げられる.しかし,その図には対象とする観光地のみの変遷が述べられており,地域の社会構造の変化や観光地間競争が捉えきれていない.また,観光客数の減少する段階(以下衰退期)に関する考察が十分でない.本研究では以上の点に留意し,地域社会構造の変化と比較しながら,美観地区の盛衰を考察する.特にまちづくりの担い手の変遷に着目し,住民のまちづくり活動の背景に存在する共通意識や地域の抱える課題について明らかにする.<BR> 2.倉敷美観地区のライフサイクル<BR> 美観地区は1979年に国指定の重要伝統的建造物群保存地区に選定された.観光客数は1988年に約540万人でピークを迎え,その後は徐々に減少,最近10年間の観光客数は300万人程度で推移している.2001年にはピーク時以降最も観光客数が少なくなり,バトラーの述べる「衰退期」に入ったと考えられるが,その後観光客数は徐々に増加あるいは停滞している.これには多様な観光資源の創出が行われてきたことが影響している.その背景には1990年代の地方分権の始まりと地域内からの転出者の増加がある.バブル崩壊後,財政難に陥った政府は自立的な地域づくりを求めた.その結果,自治体は地域資源を生かした観光による地域活性化を進めた.そして全国で観光地が増加,観光地間競争が過熱したことが美観地区にも影響してきたと考えられる.また,美観地区内部では大原美術館や倉敷川散策を中心とした従来の箱庭的な観光地として生き残ることに事業者および地域住民から危機感が生まれ,周辺も活用した新たな観光資源の発掘が進められた.また,美観地区内からの転出者の増加から生活の場としての価値の向上も意識されるようになり,町家の改修・有効利用が取組まれるようになった.<BR> 3.まちづくりの担い手の変遷と多様な観光資源の創出<BR> 美観地区は江戸時代に税負担の少ない天領と呼ばれる地区であった.この地区で商工業を営む人々は町衆と呼ばれ,独自の文化を築いた.美観地区では戦前からこの町衆を含む地域住民によるまちづくりが行われてきた.戦前は大原家が中心となり,戦後には加えて建築家・大学教授といった地元有識者によるまちづくりが進められた.現在では商工会議所や地域住民によってまちづくりが活発に進められている.本研究で取り上げるNPO法人町家トラスト(町家改修・町家賃貸仲介)および倉敷屏風祭(年に一回地域住民が屏風を披露する祭り)には,観光地として主軸を担う倉敷川周辺ではなく町家の並ぶ本町通り・東町を活動の拠点としている,リーダーが様々な地域活動に参加しているという共通点がある.本町通り・東町には人々が代々町家に住み続け,町家の一部の1階を店舗に改修,カフェ等として活用している.店主らは天領としての歴史的背景を意識しており,地区に対する強い愛着が見られ,倉敷川周辺の店主らと比較してまちづくり活動に対して強い関心がみられた.活動のリーダーはこういった地域住民と協力し,また,自身のもつネットワークを活用しながら活動を進めていた.美観地区は町衆という文化を背景とした様々な担い手により観光客の多様化したニーズを様々な観光資源で満足させることに成功している.

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205694984832
  • NII論文ID
    130007017642
  • DOI
    10.14866/ajg.2011s.0.74.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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