モンゴル北部でのヒツジ、ヤギの放牧様式の違いと体重について

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  • Pastoralism patterns and body weight of sheep and goats in northern Mongolia

抄録

1.はじめに   モンゴル国では数千年にわたり遊牧が生業として行われ、その持続可能性が注目される一方で、1990年代の民主化以降は市場や教育、医療へのアクセスが容易な都市近郊で、家畜を移動させずに定住化させる傾向が強まっている。しかし乾燥で寒冷な気候環境下で定着的に放牧を続けると自然災害の回避が難しくなり(森永ほか、2010年春地理学会予稿集)、 土地荒廃の懸念もある。よい草を求めて家畜を移動させることが、家畜の栄養状態を良好に保ち、また土地の荒廃を防ぐという「遊牧知」の科学的検証を目的に、モンゴル国北部で従来の「移動群」とあえて家畜を動かさない「定着群」の実験を行い、家畜の体重比較を行った。 2.調査地域と観測方法   調査地域は、モンゴル国北部ボルガン県中部で植生帯は森林ステップに属する。草原はStipa, Elymusなどが優占するステップが広がるが、山があると北側斜面にカラマツパッチがみられる。チョローン氏の協力を得て、ヒツジとヤギを「移動群」と、同じ場所で継続的に放牧する「定着群」とに分けた。頭数はヒツジの移動群が13、定着群が15、ヤギの移動群が10、定着群が14である。すべての個体は識別されており、2006年6月から2007年12月まで毎月末に体重を測定した。またGPS(光電製)による位置情報を6時間おきに実施した。移動群の放牧地は県庁所在地(48°49N, 103°31E, 1220m)から北西約10~20km付近に、定着群を放牧した場所は北西約7kmの谷底の川沿いにある。 3. 結果   ここでは、ヤギに関する結果を述べる。GPSデータは欠測が少ない2カ月分(2007年9月11日から11月13日)を示す。移動群は2回ゲルを移動した(図1)。ヤギの群の体重(図2)はスタート時点の2006年6月で移動群(26.1kg)のほうが定着群(30.0kg)よりも有意に軽かった(P = 0.007)。その後7月からは有意な違いはなくなり(P> 0.05)、増体しながら定着群では10月に、移動群では12月にそれぞれ最大値をとった。注目されるのは12月には定着群(39.5kg)より移動群(42.2kg)のほうが有意に重くなったことである(P = 0.04)。そしてその後はつねに移動群のほうが有意に重くなった(P < 0.05)。ヒツジもほぼ同じ傾向があり、定着放牧をすると体重維持が順調でないことが示され、「遊牧知」が科学的に支持された。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205694985600
  • NII論文ID
    130007017644
  • DOI
    10.14866/ajg.2011s.0.72.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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