デンマーク系アメリカ博物館の移民文化再生産活動
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- 山根 拓
- 富山大学
書誌事項
- タイトル別名
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- The reproductive activities of immigrant culture by Museum of Danish America, Iowa, USA
説明
米国においてデンマーク系の移民博物館や関連施設は中西部に多く立地し,その中核的な施設がアイオワ州エルクホーンにあるMuseum of Danish America(旧Danish Immigrant Museum:2013年10月に名称変更)である。この地域はシカゴからその周辺にタウンシップ制とともに拡大したデンマーク系農業移民の開拓前線上に位置し,19世紀末よりデンマーク人の多い集落が形成された。特にエルクホーンは,小規模ながら常にデンマーク系住民が高い割合を保ち,母国文化をより強く維持してきた。Danish Immigrant Museumは,在米デンマーク系移民史の保護を目的に,1983年に非営利団体としてエルクホーンで設立され,1994年に同地でデンマーク風建築の博物館を開館した。<br> Museum of Danish Americaの館内展示は,デンマーク系移民史に関わるパネルや資料の常設展示と,移民やデンマーク本国に関する企画展示から成る。展示以外に同館は,講演会の主催や,地元でのTivoli Fest(5月),Sankt Hans Aften(6月),Julefest(12月:デンマーク式クリスマス)等の民族行事の開催に関わる。併設のFamily History & Genealogy Center(家族史・系譜学センター)は,デンマーク系移民史・地域史関係の文書や地図等の資料を備え研究利用に供している。博物館・センターの企画・スタッフ・研究内容・収蔵品等に関わる情報は,同館機関誌のAmerica LetterやE-Newsletterで会員等に周知されるほか,常設展示内容や収蔵諸資料,民族系新聞等の資料・情報がインターネット公開されている。また同館は,デンマーク系移民史研究に関わる国内3研究機関との提携や,デンマークや国内の研究者・学生等のインターンシップ制度による受入れ等により,外部との交流を図ってきた。<br> 主に機関誌“America Letter”の内容に注目して,Museum of Danish Americaの活動目的やその移民社会において果たす役割について考察した。1985年創刊の本誌のうち,1999年以降の殆どの号がインターネット公開されており,この公開分を中心に同誌の記事を一覧し,言説を分析した。近年の同誌誌面では, John Mark Nielsen常務理事による論説(Director’s Corner),デンマーク系移民の個人誌・家族史・系譜を扱う連載記事(Across Oceans, Across time, Across Generations)や家族史・系譜学センター関連の短報記事(STAMARÆ),寄付者一覧等が常時掲載されており,この他に単発的な記事やある程度定期的に見られる折々の企画展や主催行事の日程・内容の紹介,新規スタッフやインターンの紹介,理事会報告等の記事がある。その誌面からは,本博物館が重視する諸テーマすなわち「移民史の復原・理解」,「Danish heritageの提示・称揚」「一流のDanish Americanの紹介・称揚」,「現在世代の移民子孫の母国理解の促進」等が読み取れる。<br> この博物館に関わる中で,Danish Americanは,祖先の過去の事情を知り,デンマーク由来の伝統的文化的価値を認識する一方,現代デンマークについても知識や経験を得ることによって,アメリカでDanish Americanとしてのアイデンティティを構築し,移民文化を継承・再生産・再定義する主体となることが期待されているのではないだろうか。<br> “America Letter”をみると,博物館側の呼びかけに応じて相当額の寄付が行われていることが具体的にわかる。2011年度の寄付者(個人や団体)の地域的傾向を“America Letter”掲載の寄付者リストのデータに基づき検討すると,全米のデンマーク系の人口分布(カリフォルニア州やユタ州に多い)に比べ,寄付者は博物館のある中西部に集中する傾向があること,他方で寄付者の分布は全米に及ぶことがわかる。このことから,伝統的なデンマーク系多住地域の住民やコミュニティがこの博物館を支える強い意識を持つことと,全米に拡散したデンマーク系住民も自らの民族的アイデンティティの拠所としてこのプレーリーの農村地帯に立地した小さな博物館を支える意識を有することがわかるのではないか。また,こうしたローカルな立地の博物館の全米各地との結びつきは,1990年代以降のインターネットの普及・活用によって一層強化されているのではないかと感じられる。こうした状況の下で,移民博物館はDanish Americaを再生産する拠点として,当面機能し続けるのではなかろうか。
収録刊行物
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- 日本地理学会発表要旨集
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日本地理学会発表要旨集 2015s (0), 100059-, 2015
公益社団法人 日本地理学会
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キーワード
詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205694995328
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- NII論文ID
- 130005489855
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可