暖冬に激しく割れたアイスウェッジ

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書誌事項

タイトル別名
  • Intensive ice-wedge cracking during a warm winter
  • Field observations in Svalbard (2009–2010 winter)
  • スバルバールでの2009~2010年冬期の観測結果

抄録

1990年前後に試行した観測に引き続き、2004年よりスバルバール内陸部での周氷河プロセスの動態に関する詳細な観測を再開した。氷楔多角形土に関しては、スピッツベルゲン島中部、アドベントダーレン谷底の河岸に近い扇状地末端部に観測地を設定し、現在まで6年間の結果を得た.ここには、レスからなる表層地盤中に直径10~30mの中心低下型の多角形土が広がり、ボーリングや地下レーダにより、厚さ1mの活動層の下に氷楔の存在が確認されている。多角形土を縁取るトラフは規模(発生段階を反映)により一次~三次に分類され、一次トラフでは両側にランパート(高まり)を伴う。一次トラフで2カ所、三次トラフで1カ所を選定し、地表の垂直・水平変位、破壊発生、衝撃イベント、地温、土壌水分、積雪を連続観測した(Matsuoka et al., 2008)。また、多数のトラフの両側にポールを立てて、その間隔を定期的に測定するとともに、毎年春には新規に発生した割れ目分布のマッピングを実施した。 広範囲で氷楔破壊が起こったのは2005~2006年、2009~2010年の冬で、いずれも全体としてみれば暖冬であった。特に、2009~2010年は記録的な暖冬で、1月に積雪が全面的に融解し、浅い湖が出現し、その後薄氷が張った。2月後半に急激な低温期が訪れ、永久凍土上面の温度が-10℃以下に達し、活動層の温度勾配が10℃/mを超えた時に、トラフが急速に拡大し(3~5mm),破壊が起こった(図1)。三次トラフの方が、一次トラフよりも早く地温低下に応答(破断)した。新しいクラックの発生も8割近いトラフで認められた。積雪の欠如、しかも脆い氷の存在が、氷楔破壊の好条件を導いたといえる。 スバルバールでは、冬期の温暖化傾向が進行しており、1990年頃のような寒冬が出現しにくくなっている。そのため、全般的に氷楔破壊も不活発化(発生頻度の減少)の傾向にあるといえるが、積雪の少ない冬に一時的な寒波が訪れれば活発化する。今後、長期間の観測継続により、氷楔形成の温度条件を精密に解明し、周氷河環境の気候指標としての精度を高めたい。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205695165056
  • NII論文ID
    130007017755
  • DOI
    10.14866/ajg.2011s.0.225.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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