鳥海山西麓斜面における森林立地と土壌性状の関係

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • The relationship between forest location and soil properties in western slope of Mt. Chokai, northern Japan.

抄録

1. 背景と目的<BR> 本研究では,ブナおよびブナ林を構成する樹種に着目しながら,ブナ-チシマザサ群落とミズナラ群落との境界における森林立地と土壌性状との関係を調査した.中村ほか(1991)によれば,境界には分布を制限する働きもあるが,異質な空間が隣接して相互に作用しあう場所でもあり,漸移する幅広い帯で示されることもある.このような地帯では,隣接部分の差異や両者の機能関係に由来する各種の事象が生じるとされており,このような観点から土壌や植生の境界を捉えることは,それらの分布を考察する上で非常に興味深い.本研究は,土壌および植生の移行帯における森林立地と土壌性状の関係について考察し,移行帯を特徴づけることを目的とした.<BR>2. 研究の方法<BR> 本研究では,非常に緩やかな傾斜をもっており,土壌図や植生図では表現することが難しいと考えられる幅広い境界域(移行帯)が存在することが期待できる鳥海山西麓斜面を調査対象地域とした.この地域の農耕地では,大陸起源の風成塵由来の2:1型粘土による交換性アルミニウム過剰障害が報告されている(井上,1996;三枝ほか,1993)ことから,土壌性状が森林立地に及ぼす影響は大きいと予想される.このような鳥海山西麓斜面の環境特性を踏まえ,標高系列で土壌断面調査および植生調査を行った.<BR> 調査地点は,低標高地から順にCh1~Ch7とした.Ch1,2(標高550m,650m)は褐色森林土域,Ch6,7(標高1100m)はポドゾル土域であり,Ch3~5はそれらの境界線と推測される標高700~750m間を移行帯として調査地点に設定し,土壌断面調査を行った.各地点では10m×10mのプロットを設置して樹木を中心とした植生調査を行い,林分断面図と樹冠投影図を作成した.樹木の成長量の計測には成長錘を用いた.表層土壌については,100ml円筒管を使用し不攪乱試料を採取し,土壌三相計(DIK-1120)を用いて土壌の三相組成を測定した.土壌断面の各層位から採取した土壌は室温で風乾し,pH(H2O,KCl,NaF) をガラス電極法により測定した.全炭素・全窒素量はNCアナライザー(NC-22A,SCAS)により測定した.また,選択溶解法により土壌中の可溶性鉄・アルミニウム・ケイ素の定量を行った.交換性アルミニウムは1N KClを用いて抽出を行い,中和滴定により含量を求めた.なお,外生菌根菌が形成した菌核について,10g~30g程度の土壌を分取し,蒸留水に浮上させて目視により採取して存在量を確認した.<BR>3. 結果と考察<BR> 鳥海山西麓斜面における土壌の移行帯は,標高710mから780m間,水平距離にすると750mの間にて確認された.そして,植生の移行帯は標高650mと780m地点で確認できた.土壌の移行帯については,Ch3では隣接する褐色森林土の性質が強く表れており,Ch4では隣接する褐色森林土とポドゾル土の両方に由来する性質が認められた。また,Ch5は隣接する地域の性質の表れに強弱があるうえ,Ch3・4よりも特異な性質を示した.本調査地においては,土壌と植生の移行帯は必ずしも一致はしていなかったが,土壌性状と植生(ブナの生育)には密接な関係がみられた.今回の調査は7地点という限りある地点数で行ったが,鳥海山西麓斜面における植生および土壌の移行帯の出現位置の認定と特徴づけが可能であると考えられた.<BR> ブナの成長が最も旺盛であったCh3では,土壌中の栄養塩類の多寡が関係していると考えられた.土壌中の交換性アルミニウムの含量が最も多かったCh4では,樹木の生育への影響が多大に表われることはなく,最も樹齢のあり樹高の高いブナが生育していること,さらには最も菌核の存在量が多いことから,森林の成立に関して菌根形成の果たす役割が大きいため,毒性の強い交換性アルミニウムによる植物の生育障害が軽減されている可能性が高いと考えられた.また,Ch2・5は植物根と関係が深い全孔隙率が低く,他地点とは異なる土壌の物理的性質を示した。これらの地点では植生が混在していることに加え,調査時に確認された雪解けに起因すると考えられる流路の形跡から,伏流水の影響もあると考えられた.<BR>【参考文献】 中村和郎,手塚章,石井英也著(1991):地域と景観,古今書院/井上克弘(1996):土壌および大気水圏環境に及ぼすアジア大陸起源広域風成塵の影響,日本土壌肥料学雑誌,67(3),235-238/三枝正彦,松山信彦,阿部篤朗(1993):東北地方におけるアロフェン質黒ボク土と非アロフェン質黒ボク土の分布,日本土壌肥料学雑誌,64(4),423-430

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205695177088
  • NII論文ID
    130007017774
  • DOI
    10.14866/ajg.2011s.0.210.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ