中国都市地域における墓地の立地動向

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  • Locational trend of graveyard in contemporary urban China

抄録

1.はじめに<br> 経済成長が続く中国の都市地域では,住宅や工業用地の開発などによる市街地の空間的拡大が顕著であり,周辺の農地などが都市的土地利用に転用されている。一般的に人はその死後,残された親族などによって墓地が築かれる。土葬や火葬など,形態の違いはあるが,これらの墓地は一定の土地を占有することとなる。人口増加の結果,死亡者数も増加しており,現世の人口のために使用される土地面積に加えて,死者のために利用される土地,つまり墓地面積も増加している。より良い墓地を求める市民の需要の増大に対して,土地資源の管理の一環として墓地面積の拡大を如何に抑制するかが課題となっている。<br> このような都市地域における墓地需要は,中国に限らない。しかし,死者を弔い,悼む場所としての墓地は文化,宗教などに根ざす人々の価値観を強く反映するため,セレモニーとしての葬儀も含めて,墓地の態様や土地の使用状況は国や地域により異なる。<br> 本研究は,以上のような問題認識に立ち,「死者のために利用される土地」,つまり墓地の土地面積と埋葬の形態に関わる経済的・社会的・文化的要因を把握することで,人類にとって不可欠の「死者のための土地利用」の形成メカニズムと持続可能性を明らかにすることを目的とする。 本報告では,人口増減や経済発展段階,さらに葬送文化が異なる日本と中国を比較考察することを念頭において,文献調査ならびに2016年度に実施した中国,北京市における現地調査の成果を整理する。<br>2.中国における風水思想と都市における墓地立地<br> 風水の思想は,中国において生活に関わる多くの側面に影響を与えてきた。新中国成立以後,風水思想は古い因習として否定されてきたが,近年は再び風水を重視する傾向が見られる。風水師が墓地の購入や改葬などの際に,地形や川などの自然条件や個人的情報も加えて,墓地の立地などを依頼者に対して助言を行うこともある。聞き取り調査によれば,墓地移転の事例が増えており,風水師の力を借りて,より良い墓地を求めたいと考える市民が増えている。<br> 風水思想においては,墓地は「上風上水」に設けられるべきと考える。つまり,もともと水が来るところである川の上流域あるいは山の斜面に人間の命(「気」)を返すという考え方である。また,空間的な配置としては,墓地は人の居住地域から直接的に見えないことを重視する。これは基本的に陽界と陰界は交流するべきではないとの考えに基づく。その結果,都市地域に限らず農村地域においても,市街地や集落との間に公園や緑地などを帯状に挟むことで,視覚的・心理的に墓地と集落とを分離する効果を生み出している。<br> このような考えに基づき,経済成長や人口増加によって,市街地が外延的に拡大し,都市化によって墓地に市街地が近づいてくると,墓地はさらに遠方へと移転する。日本では仏教寺院などを中心にして,市街地内にも墓地が現在でも多数立地しており,一度形成された墓園を取り巻いて,市街地が形成されることも少なくない。これと比べると,中国では市街地と墓地は明確に分離する意識が強いといえる。<br>3.北京市における墓地の空間的分布<br> 北京市における墓地の立地の特徴として,高いところ,遠隔地域,非農業用地という3点が指摘される。つまり,市街地から離れた遠隔地の非農業用地を利用し,場合によっては山の斜面の高い所にも立地している。華北平原の北端に位置する北京市内には現在,市民向けに整備された公墓が33ヶ所あり,その多くは市街地の北側,特に北部の山麓に立地する。このような特徴が生み出された背景には,上記の風水思想がある。市民向けに供給される公墓の多くは,1980年代以降開発されたが,正式な行政上の許可を経ずに開発されたものもある。その結果,需要に対して供給が過大であることや農地・山林等との生態的な調整が不十分であることなどの課題が指摘されている。<br> 近年は行政のコントロールが強化され,新たな墓地開発が規制されているため,墓地の価格が上昇している。また,人口増加に伴い,墓地の需要が増加していることから,土地の効率的な利用が求められている。そのため,墓石間の間隔が狭い区画や1メートル程度の厚さの壁を利用するものも建設されている。<br> 文献<br>民政部一零一研究所(2015):『中国殡葬事业发展报告』 社会科学文献出版社.吕佳・张聪达・林静(2014):关干殡葬设施规划与建设 几点思考.城市规划,vol.38,no.5, pp.90-96.<br>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205695181184
  • NII論文ID
    130005635856
  • DOI
    10.14866/ajg.2017s.0_100329
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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