有明海南東岸前浜および河口干潟堆積物の鉛直的な理化学性状と底生微細藻類の分布特性
書誌事項
- タイトル別名
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- The Charactaristic of Vertical Physicochemical Property and the Distribution of Microphytobenthos in Coastal and Estuarine Tidalflat in South-east Ariake Bay
説明
1. はじめに<br> 閉鎖性海域とは, 内海や内湾のように外部との海水交換が行われにくい海域である。こうした温帯の閉鎖性海域は一般に栄養塩に富んでおり, 養殖業や沿岸漁業が活発に行われる一方で, 都市排水などの影響を受けやすく, 漁獲量の減少・不安定化, 赤潮の頻発などがしばしば問題となっている。 内湾の辺縁や河口などに広く分布する干潟は, 豊かな生態系を育むことで, 高い水質浄化能を発揮する。中でも付着珪藻を優占種とする底生微細藻類は, 干潟における一次生産者として重要な役割を担っており, 環境保全に食物連鎖を通じて直接的, 間接的に大きく貢献している。 また, 干潟を含む沿岸域の物理化学要因と生物生息場の間には, 相互関係が存在し, その中で特有な生態系が育まれる。そのため, 沿岸域の物理化学要因は, 沿岸域の環境を構成する最も基本的なものである。一方で, 底生微細藻類は, 干潟生態系ピラミッドを支える主要な一次生産者である。したがって, 干潟の物理化学要因と底生微細藻類の分布特性との関係を把握することは非常に重要である。底生微細藻類の生息密度に大きく与える物理化学的要因としては, 光量, 栄養塩濃度, 波浪などの営力などが挙げられるが, こうした要因は干潟の立地のみならず, 表層からの深さによっても変動すると考えられる。本研究では, 前浜および河口干潟の各地点における堆積物中の鉛直的な物理化学的要因と底生微細藻類の分布特性との関係について検討する。<br><br>2. 研究方法<br> 調査地域は有明海南東岸に広がる前浜干潟とそれに隣接する白川河口干潟とした。白川は, 阿蘇カルデラを流域に持ち, ヨナと呼ばれる新生火山灰土を運搬している。 2016年に発生した熊本地震により白川流域において多数の土砂崩れが発生したが, これによって,その下流域に広がる河口干潟や隣接する前浜干潟にもヨナを含む多くの土砂が流入していると考えられる。試料採取は, 2016年9月4日および同年11月14日の干潮時に行った。白川河口干潟において1地点, 隣接する前浜干潟2地点の全3地点において, 長さ約30cm直径約5cmのコアチューブを用いて採取し, 層別に区分したのち, 各分析に供した。分析項目は, 粒度分布, 全炭素量, 全窒素量に加え, 主要鉱物に占める火山ガラス含有率, 底生微細藻類の現存量の指標となる底泥中の全クロロフィルa量とした。<br><br>3. 結果<br> 前浜干潟と河口干潟における火山ガラス含有率を求めてみると, 火山ガラス含有率は, 立地によって異なる傾向があり, 火山ガラスは河口干潟のほうが前浜干潟よりも堆積しやすい環境であることが示唆された。火山ガラス含有率の鉛直分布は, 河口干潟においては比較的大きな変動が認められる一方で, 前浜干潟においては小さい傾向を示した。また, 粒度分布の変動は,河口干潟においては砂分が多く, 前浜干潟においてはシルト・粘土が比較的多い傾向が認められ, 鉛直分布の変動は前浜干潟の1地点と河口干潟においては比較的小さいが, 前浜干潟の他の1点においては大きな変動を示している。Frogner et al.(2001)は, 室内実験において火山灰が海水面に降下すると, 火山灰が吸着していたリン酸塩や微量金属が急速に放出されることを示した。干潟においても同様の現象により, 立地環境が底生微細藻類の生息密度に影響を与える可能性がある。
収録刊行物
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- 日本地理学会発表要旨集
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日本地理学会発表要旨集 2017s (0), 100349-, 2017
公益社団法人 日本地理学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205695235328
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- NII論文ID
- 130005635798
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可