愛知県豊田市における定年退職者への農業支援とその意義
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- 植村 円香
- 秋田大学教育文化学部
書誌事項
- タイトル別名
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- Agricultural Support to Retired Workers and Its Regional Significance in Toyota City, Aichi Prefecture
抄録
1. 研究の背景と目的<br>農業従事者の減少のなかで地域農業の新たな担い手が求められている.特に近年は,新規就農者が農業に必要な技術や知識を取得できるよう農業大学校や農家研修を実施するなど就農支援策が強化されてきた.<br> しかし,就農支援策の多くは,定年退職者を対象外としている.その一つの要因は,定年退職者が年金を受給しながら家庭菜園など趣味や農地管理として農業に従事することが想定されているからである.しかし,定年退職者のなかには,生産した農作物を出荷し収入を得ることを希望する者も存在する.このような定年退職者に対して,地域が高い農業技術や販売技術を提供することができれば,彼らを地域農業の担い手に成長させることができると考えられる.<br> 愛知県豊田市(以下,豊田市)は,定年退職者を地域農業の担い手と位置づけ,農業支援策を講じている.そこで本発表では,豊田市における定年退職者の農業支援とその意義を明らかにすることを目的とする. <br> <br>2. 豊田市の概要 <br> 豊田市は,自動車工場の集積地である豊田地区と中山間地域である7地区からなる.特に豊田地区は,1938年にトヨタ自動車が拳母工場を誘致して以来,県内外から多くの労働者が移住し人口が増加してきた.<br> しかし,1990年代頃から豊田市では,トヨタ自動車に従事していた団塊世代が定年を迎えつつあったほか,中山間地域を中心に耕作放棄地が増加していた.こうした問題に対応するために,2004年に豊田市は定年退職者を地域農業の担い手として育成するための就農支援策を講じた.<br><br>3. 定年退職者の農業支援とその意義<br> 2004年に豊田市は農協とともに農業支援施設である豊田市農ライフ創生センター(以下,センター)を設立した.センターでは受講者が農業の難易度,農地の有無,希望する農作物によってコースを選択する.1年間または2年間の圃場実践を通じて農作物の栽培技術を講師から学ぶことができる.2016年度の受講生は95名であり,そのうち60歳以上が54名であり,その多くが定年退職者である(半年開講のコースを除く).<br> 発表者は,2016年10月に受講生93名を対象にアンケート調査を実施した(回収率92.5%).その結果,受講生の約30%が豊田市以外の出身であった.彼らの多くは,就職と同時に豊田市に移住し,定年退職まで勤め,その後も豊田市に定住しており,農地を借り受けて農業を行うことを希望していた.実際にセンター修了者は,全体で約50haの農地を借入しており,豊田市の耕作放棄地解消の担い手となっていた(2015年時点).また,修了生のなかには,農協の部会に所属し,豊田市の農業の担い手として成長する者も存在した.<br> このように,センターは,受講生への農業技術の提供だけでなく,修了生に対して農地バンクや農協部会の紹介のほか農機具の貸し出しなど,農作物の栽培から販売まで一貫したサービスを提供していた.その結果,農地を所有していない受講生であっても,円滑に就農することが可能となり,豊田市の農地や農業の担い手としての成長を実現させていた. <br><br> 本研究は,公益財団法人国土地理協会2016年度学術研究助成「自動車産業における定年退職者の農業と地域的役割」を利用した.
収録刊行物
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- 日本地理学会発表要旨集
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日本地理学会発表要旨集 2017s (0), 100334-, 2017
公益社団法人 日本地理学会
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キーワード
詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205695248256
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- NII論文ID
- 130005635796
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可