矢作川下流低地における完新世の堆積土砂量と炭素蓄積量の時系列的変動

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  • Time-series variation of sediment budget and stored carbon buring the Holocene in the Yahagi River Delta

抄録

本研究は、ボーリング資料や14C年代値が豊富で、各層序の堆積構造が比較的単純な矢作川下流低地を対象に、海底に堆積する三角州堆積物も含めた堆積土砂量と炭素蓄積量を質量として明らかにするとともに、それらの時系列的変動を明らかにすることを目的とする。<BR>  まず、各種地図およびボーリング資料から、地表面、US上限(=TM下限)、US下限、MM下限、LS下限の標高データベースを作成した。これらを用いArcView 3D AnalystのInverse Distance Weighted(IDW)法で各サーフェスモデルを作成し、切り盛り計算を行い各層序の体積を推定した。14C年代値は、既存データおよび本研究で新たに得られた計106点の値を用い、CALIB 6.0.1を用いて暦年較正を行った。貝殻試料にはΔR値として133±75(Fujimoto et al. 2009)を用いた。これらの暦年校正値を用い、7000~2000 cal BPの1000年毎の地表面標高データベースを作成し、各時間面サーフェスモデルを作成した。地表面・各層序境界面サーフェスモデルと各時間面サーフェスモデル間で切り盛り計算を行い、1000年毎の各層序の体積を推定した。各層序の容積重および炭素含有率はFujimoto et al. (2009)の値を用いた。海域の計算対象範囲は三角州前置層が分布する水深16mの範囲とした。<BR>  層序別の体積は、TMが213Mm3、USが855Mm3、MMが1210Mm3、LSが493Mm3、全体積に占める割合は、それぞれ7.7%、30.9%、43.7%、17.8%と算出された。質量は、それぞれ230Tg、1214Tg、1126Tg、665Tg、全質量に占める割合は、それぞれ7.1%、37.5%、34.8%、20.6%と見積もられた。蓄積炭素量は、TMが5.69Tg、USが1.46Tg、MMが25.89Tg、LSが5.12Tg、全蓄積炭素量に占める割合は、それぞれ14.9%、3.8%、67.8%、13.4%と見積もられた。  各時代の堆積土砂の体積と質量は、7000~6000 cal BPが185Mm3で196Tg、6000~5000 cal BPが292Mm3で327Tg、5000~4000 cal BPが225Mm3で238Tg、4000~3000 cal BPが397Mm3で462Tg、3000~2000 cal BPが271Mm3で329Tg、2000~1000 cal BPが393Mm3で474Tgと算出された。蓄積炭素量は、7000~6000 cal BPが3.01Tg、6000~5000 cal BPが4.03Tg、5000~4000 cal BPが3.70Tg、4000~3000 cal BPが4.78Tg、3000~2000 cal BPが2.94Tg、2000~1000 cal BPが5.41Tgと算出された。<BR>  縄文海進が進行した7000~6000 cal BPは、対象地域の全域で地表面の標高が現海水準以下にあることから、当時の海水準を考慮すると、対象地域の全域が海域であったと考えられる。この時代の堆積土砂量は相対的に少なかった。6000 cal BP以降三角州が前進へ転じ、海岸線は5000 cal BPには現海岸線から約12km内陸側に位置していた。この間の堆積土砂量は相対的に高い値を示し、特にUSの堆積が顕著であった。4000 cal BPにおける前置斜面の遷急線の位置は5000 cal BPの位置より約2km内陸側にあり、5000~4000 cal BPの間に海岸線が一時的に後退した可能性が指摘でき、この間の堆積土砂量は相対的に少なく、海岸線後退の要因として、海水準の上昇と共に土砂供給量の低下が関係している可能性が指摘できる。前置斜面の遷急線の位置は3000 cal BPには現海岸線から約9km内陸側にあり、4000~3000 cal BPの間に急速にデルタが拡大したことがわかる。この間の堆積土砂量は相対的に高い値を示し、海水準の低下と共に土砂供給量の増加がデルタ拡大の要因となった可能性が指摘できる。2000 cal BPの前置斜面の遷急線は現海岸線から約7km付近にあり、3000~2000 cal BPの海岸線の前進速度は相対的に遅かった。約400年前に河川付け替え工事が行われ、その後矢作川低地にはほとんど土砂が供給されていないにもかかわらず、2000 cal BP以降の堆積土砂量は相対的に高い値を示す。その要因として、気候変化と共に人為的影響も考慮する必要があろう。<BR>  研究対象地域153.9km2における全蓄積炭素量は38Tgと見積もられた。2000~1000 cal BPの間が最も大量の炭素を蓄積しており、次いで4000~3000 cal BP、6000~5000 cal BPが多かった。3000 cal BP以前はMMが、2000 cal BP以降はTMが主要な炭素蓄積の場となっている。TMは、粘土質の後背湿地堆積物であることから、河川の氾濫によってそこに繁茂していた植生が埋積されることで炭素蓄積が進行したものと考えられる。MMは陸側では陸域起源有機物の再堆積がみられるものの、海側では海成有機物と海成無機炭素がその主要な供給源となっている。すなわち、河川の氾濫を伴う地形形成プロセスが炭素蓄積を促進しているということができる。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205695249152
  • NII論文ID
    130007017851
  • DOI
    10.14866/ajg.2011s.0.239.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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