行政災害 -八ッ場ダム検証に見る国交省河川部門の不正報告(Ⅳ)

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  • Adminnistrative About the fraud report of the Yanba dam verification by the Ministry of Land,Infrastructure and Transport river section part 4

抄録

<br><br>Ⅰ はじめに 八ッ場ダム建設関連で2015年6月26-27日に実施された土地収用委員会の公聴会は,公共の利益に資する場合に限り,国民の私権を法に基づき一方的に制限出来る土地収用法適用の妥当性を判断するために開かれたものである.本発表では,著しい土砂災害リスクの指摘があるにも拘らず,ダムを造るためだけに流域自治体を巻き込み,杜撰な対策と偽りの報告を繰り返してきた起業者側の実態や公聴会を含めたその後の対応について報告する.<br>Ⅱ 公聴会の事前質問・提出資料への対応と実態 公聴会は,発言・質問をする公述人に対して1週間前までに当日の質問と公述内容・画像を事前提出することが義務付けられており,これらの資料に基づき,起業者側が回答する方式となっている.また,土地収用委員会側は,双方の意見や回答の記録を文章におこし,その内容を公述人が最終チェック(誤字脱字や誤表記文の訂正)した後,使用した図表を含めて公表することを土地収用管理室で窓口の柴野将輝氏により確約されていたが,公述内容もホームページ上に公表したとする連絡さえ伝えてこない事態が今も続いている.公聴会当日の起業側(藤原・小宮両氏)は,事前質問への回答準備をしておらず,その場に於いても度々偽りの回答を繰り返した.また,土砂崩壊や地すべりなど大規模災害を引き起こす可能性が高い応桑層(OkDA)について詳細に検討したとする土木研究所の専門家についての質疑では,どのような研究や論文が存在するかとの質問に対しても一切答えないという隠ぺいも行われた.実態は,OkDAに関して民間のコンサルタントに丸投げし,辻褄合わせのデータと権威づけの為の研究者3人の名を工事事務所のホームページに紹介していただけで,検討したとされる専門家が当該地域のOkDAに関して研究発表や具体的な論文を公表した事実は存在しない.<br>Ⅲ 応桑層の崩壊・地すべり4対策は機能しない<br>BP軽石噴火中のおよそ2.4万年前の山体崩壊で崩れ落ちた土石で構成された応桑層(OkDA)は,水で飽和すると崩れやすい性質があり,振動を与えれば,住民の生活基盤を直接奪う災害を引き起こすだけでなく,ダムの埋積が急速に進むことは自明である.現在の吾妻渓谷で崩壊や地すべりが減少したのは,水で飽和すると崩れやすいOkDAの基底よりも深い位置まで吾妻川が谷を刻み「水切り状態」にし,地盤を安定させたためである.OkDAは,直下にBP軽石を伴っており,軽石は粘土化しやすいため,すべり面となりやすい.このため,長野原町民が暮らすこのような地盤の安全確保は,ダム事業を進める上で必要不可欠なものである.しかし,国が実施するとした4つの防災対策案は,安全性においても著しく乏しいことを以下に記す.<br>排土工法 メガブロックの軽量化や岩盤すべりに有効であるが凝集力が乏しく水に浸かると崩れやすい土石には機能しない<br>押え盛土工法 飽和すると崩れやすいOkDA(層厚30-100m)分布地全域(吾妻川両岸と支流)で対策を実施しなければならず,貯水量は激減し費用対効果も問題となるだろう.<br>杭工法 崩れ易いブロックが何処にあるか全て確認できなければ杭を打つ効果は乏しく,BPがすべり面の場合機能しない.<br>アンカー工法 pH1~3の強酸性の地盤上に,凝集力が乏しく崩れやすいOkDAが瞬時に堆積した場所に,無数のアンカーを打つだけで,地すべり防止に耐えられるか甚だ疑問である.<br>このように国交省から提示された資料は,数多くの科学的事実を無視した【ダムありき】で恣意的なものであった.ダム計画で60年以上にわたり家族が翻弄され,さらに,偽りの情報で追い詰められた住民の皆さんが苦渋の選択でダムに夢を託した「作られた民意」を盾に,当局はダム工事を継続させたといっても過言ではない.工事中に発生した陥没群(中村・竹本,2015)や大規模な土砂災害発生が危惧されている中で,これらの防災対策を実施しないまま本体工事に着手したことは,災害発生時には,一切の責任を負わない河川官僚らの無責任な対応に加え,ダム関連事業費として新規の予算獲得に利用される可能性が極めて高くなるだろう.今後,災害が発生した場合【想定外】という言い逃れをされないよう,直接被害を受ける現地の住民に,極めて不安定な地盤であることを事前に知らせることを怠った関係当局に責任の所在があることを再度指摘しておきたい.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205695379968
  • NII論文ID
    130007017872
  • DOI
    10.14866/ajg.2016s.0_100343
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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