大阪市における韓国人宿の経営実態と特徴

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  • Current Situation and Characteristics of Management of Korean Accommodation Facilities in the City of Osaka

抄録

1.はじめに<br><br>近年、日本では訪日外国人旅行者数の増加が続いており、韓国からの訪日旅行者数は2015年に初めて400万人を超えた。そのうち個別手配の旅行形態が74.2%を占めている(観光庁、2016)。インターネットの普及を背景とした情報網の発達やSNSでの情報拡散は個人旅行を充実させる素材の選択肢を豊富にしている。その一つが宿泊予約ポータルサイトや宿泊マッチングサービスの登場である。宿泊ビジネスにおいて様々な変化が生じている中で、日本在住韓国人の経営による低廉宿泊施設の開業がみられる。最近10年間の宿泊施設数の推移をみると旅館が25%減少していることに対し、ホテルは11%、簡易宿所は14%増加した。低廉宿泊施設の進出が多くみられる中で韓国人が経営する宿泊施設(以下、韓国人宿)は、韓国人旅行者が集い、交流できる場所として訪日韓国人旅行者の受け皿となっている。しかし、韓国人宿に焦点を当てた分析はなされておらず、経営や利用現状など全体像はまだ明らかにされていない。<br>そこで本報告では、大阪市における韓国人宿の経営実態と特徴について検討し、訪日韓国人の宿泊需要に特化した観光インフラとしての可能性について基礎的な知見を得ることを目的とする。<br><br>2.韓国人宿の分布と施設タイプ <br>現在、旅館業法による営業許可を得て運営されている韓国人宿は総9軒であり、その内訳を旅館業法上の種別よりみると、「旅館」が1軒、「簡易宿所」が8軒である。9軒中7軒は2014年開業の宿であり、大阪を訪問する外国人旅行者の増加に相まって、韓国人宿の需要も高まったとみられる。建物様式は、商業ビルを改修・改築したケースやウィークリーマンション、宿泊施設として元々利用されていた建物を活用しているものが多く、新築や既存の自宅を利用したものは少ない。客室タイプはドミトリータイプ及び個室(2人/4人)タイプを備えている。また、ほとんどの宿が宿泊者とスタッフ、他の宿泊者と交流できるスペースを設けていた。いずれの宿も基本的には素泊まりであり、宿泊料金はドミトリーの場合、1泊一人当たり2200円~3000円、客室タイプは7000円~9000円(2名1室)と10000~14000円(4名1室)と低廉である。韓国人宿は主に日本橋駅周辺に多く立地しており、大半が2014年以降に開業した宿であった。この背景には、道頓堀、難波、心斎橋への接近性が良く、買い物やグルメを主目的とする旅行者のニーズを意識した立地選定があった。<br><br>3.韓国人宿の経営特性<br><br>韓国人宿の経営主体は、株式会社が4軒、個人経営が5軒である。女性経営者が多く、最低10年以上の居住歴を有していた。貿易関係や同胞向けのサービス業、飲食業など複数事業の経営者もみられた。宿は<br>2名~5名の韓国人スタッフで運営されており、自社のHP、ブログ、韓国の宿泊予約ポータルサイト、SNSを活用して情報を発信し、予約を取っていた。韓国の旅行会社と提携している宿もある。<br>韓国人宿の開業理由は、低廉な宿泊先の提供、韓国人との交流や韓国人旅行者同士の交流の場の提供である。各種無料サービスを提供する宿は多く、韓国語によるコミュニケーションの構築や現地情報の取得といった魅力もある。しかし一方、宿泊者には韓国と異なる日本文化に対する理解やエチケット・マナーの遵守への意識づけが求められていた。<br><br>4.おわりに<br>韓国人宿は、訪日韓国人旅行者と深く結びついた社会性を持つ宿泊施設である。日本在住韓国人の宿泊市場への進出は、海外旅行先におけるホストとゲストとの新しい関係を構築させているとみられる。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205695397632
  • NII論文ID
    130005279728
  • DOI
    10.14866/ajg.2016a.0_100045
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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