タイ・バンコクにおけるミャンマー人コミュニティの適応戦略
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- 小野澤 泰子
- 筑波大・院 日本学術振興会特別研究員(DC)
書誌事項
- タイトル別名
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- The Adaptation Strategy of Myanmar Community in Bangkok, Thailand
説明
1.はじめに<BR> 1980年代の高度成長期以降,東南アジア諸国において国境を越える出稼ぎ労働者が急増した。労働力「輸入」国となったタイには現在100万人以上もの外国人労働者がいると推定されており(Yang2007),またその70%以上がミャンマー人であるとされている(Aung2007)。タイ・ミャンマー国境付近の県をはじめ,チェンマイやプーケットといった都市部にもミャンマー人コミュニティが形成されてきている。首都バンコクには,最も多くのミャンマー人が住んでおり(全体の13.9%),ホスト社会において不可視であるが,独自のコミュニティを形成している.<BR> 本研究ではバンコクにおけるミャンマー人コミュニティを対象に,その適応戦略とコミュニティ構造を解明することを目的とする。分析に当たり,二つの種類の組織に焦点をおきながら,バンコクのミャンマー人の組織を提示していく。第一は,バンコクに到着したばかりの移民に対して全般的なサービスを提供している組織であり,第二は彼らのエスニック・アイデンティティに関わる宗教的な組織である。<BR> 2.バンコクにおけるミャンマー人<BR> バンコクにおいてミャンマー人が仕事をするためには,高いタイ語能力もしくは英語を有し,また不法滞在者への取り締まりが厳しいことから労働許可書(ワーク・パーミット)の取得が必要とされている.そのためバンコクのミャンマー人は他県に比べ教養のレベルが高く,ワーク・パーミットを有している者の割合も高い。職業も,一・二次産業労働者より,欧米系外国人と関わるようなサービス業に従事する者が多く,店やレストランの従業員,メイド,英語教師といった職種が多くみられるのも特徴である。外国人雇用主宅への住込みが多いことから,バンコクにおけるミャンマー人集住地区はほとんど見られず,またエスニック・ビジネスの展開も未だ初歩的な段階にあるため,一般的にミャンマー人コミュニティは現地社会において不可視な存在である。しかしほとんどの者の休みである日曜日になると,ミャンマー人の組織によるミャンマー人のための集会が市内の各地で行われ,情報を交換し合ったり,生活や精神面での支援をしあったりする様子が見られる。<BR> 3.ミャンマー人による活動組織 <BR> (1)ミャンマー人による生活支援組織<BR> バンコクにはA氏というミャンマー人コミュニティ・リーダーがおり,ミャンマー人の人権を法的にサポートする活動組織と,ミャンマー人のための学校の二つを運営している。<BR> ・法的サポート組織<BR> バンコクだけにとどまらず,タイ各地から年間50~100件ものミャンマー人から相談が寄せられ,A氏と事務所のスタッフにより,裁判に必要な書類を作成したり弁護士と連絡を取り合う手助けを行っている。<BR> ・ミャンマー人学校<BR> ミャンマー人がタイで仕事をしながら生活していくために必要なタイ語や英語,コンピューター技術,タイの常識やマナーを教える学校。毎週日曜に開校され,受講者は700人以上,主に18~25歳の若いミャンマー人が中心である.<BR> (2)宗教的諸組織<BR> ・キリスト教関係の組織<BR> バンコクにはミャンマー人のためのキリスト教会またはセンターが,5カ所存在している。各教会は150~400人のミャンマー人から成り立っており,メンバーの中には高所得者や高学歴の者も少なくなく,年齢層の幅も広い。また教会ごとにエスニック集団のすみわけがみられることも特徴として挙げられる。<BR> ・仏教関係の組織<BR> キリスト教関係の施設が重質しているのとは対照的に,仏教徒のミャンマー人が利用できる施設は非常に限られている。<BR> 【参考文献】<BR> Aung, T. T. 2007. Myanmar Migrant Society in Bangkok Metropolis and Neighboring Region, 佐々木衞編著2007.『越境する移動とコミュニティの再構築』東方書店.<BR> Yang, F.B.Y. 2007. Life and Death Away from the Golden Land: The Plight of Burmese Migrant Workers in Thailand, Asian-Pacific Law & Policy Journal 8: 485-535.
収録刊行物
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- 日本地理学会発表要旨集
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日本地理学会発表要旨集 2011s (0), 102-102, 2011
公益社団法人 日本地理学会
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キーワード
詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205695459584
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- NII論文ID
- 130007017915
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可