日系化学企業におけるR&D機能のアジア展開

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  • Expansion of R&D in Japanese Chemical Firms in Asia

抄録

Ⅰ はじめに<br><br> 日系企業のR&D機能は国内に集中してきたが,近年は現地顧客に対応した開発拠点を新設する企業が増加している.また多国籍企業におけるR&D機能の立地地域として,中国などのアジア地域の存在感が急速に強まってきており(UNCTAD 2005),日系企業についても同様の傾向が見られている(若杉・伊藤2011).ただし,特に日系企業は自国を中心としたR&D組織をとる傾向にあり,国内産業の空洞化を分析する上でも,国内におけるR&D機能との分業関係への注目が必要である(上野ほか2008).<br><br>本報告では,まず日系化学企業のアジアへの進出状況,研究開発活動を概観する.次に,2012年から2014年にかけて本社及び現地拠点での聞き取り調査を行ったDIC,宇部興産,三井化学,JSRの4社について,アジアにおける研究開発活動の実態を述べ,日本との分業関係について考察する.<br><br> <br><br>Ⅱ 化学企業におけるR&D機能のアジア展開<br><br> 主要な日系化学企業によるアジアでの研究開発機能の分布の特徴を概観してみると,多くは生産拠点に付設された機能が中心であり,主に生産品目に関する現地対応の開発や,生産技術の深耕が担われていた.<br><br>その一方で,化学企業の独立研究開発拠点は,中国の上海市を中心とした長江デルタ地域に多く立地している(JETRO上海事務所 2014).とりわけ上海市には,アメリカのDupont,Dow Chemical,ドイツのBASF,Bayerといった世界的な化学企業が研究開発拠点を設置しており,日系の東レも比較的規模の大きな研究開発拠点を設けている.またシンガポールに関しても,同国の科学技術庁(A*STAR)が研究開発型産業振興を推進していることもあり,前述した欧米化学企業4社や,本報告で取り上げる三井化学などが研究開発拠点を設けている.これらの拠点は生産拠点の支援だけでなく,全社的な研究業務も担っている.<br><br> <br><br>Ⅲ 事例海外R&D拠点の役割と国内外におけるR&D機能の分業<br><br> 事例拠点の役割を整理すると,DICの青島研究所(中国)と宇部興産のUTCA(タイ),三井化学のMS-R&D(シンガポール)は,人材獲得・育成を主な目的とし,全社的な研究開発機能を担う拠点であった.いずれの拠点も,計画されていた人員規模までは拡大しておらず,アジア諸国での研究所運営が容易ではないことを示唆している.また国内の研究所と比較して人員規模が小さく,企業内の分業関係に大きな影響を与えてはいなかった.<br><br>一方,JSRの子会社であるJMK(韓国)とJMW(台湾)については,特定の顧客への迅速な技術的対応を目的とした進出であった.現地で勤務するR&D要員の中には駐在員の数が多く,顧客との技術的なやり取りを現地で迅速に行う重視されていた.こうした形態での進出の場合,日本で従来行われていた業務が移管されているため,日本の研究所との分業にも変化がみられることがわかった.<br><br> <br><br>参考文献<br><br>上野 泉・近藤正幸・永田晃也2008. 日本企業における研究開発の国際化の現状と変遷,文部科学省科学技術政策研究所調査資料151.<br><br>JETRO上海事務所 2014. 『中国華東地域における日系企業R&Dの発展状況報告』<br><br>若杉隆平・伊藤萬里2011. 『グローバルイノベーション』.慶応義塾大学出版会<br><br>UNCTAD 2005. World investment<br>report 2005: Transnational corporations and the internationalization of<br>R&D, United Nations

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  • CRID
    1390001205695477632
  • NII論文ID
    130005490063
  • DOI
    10.14866/ajg.2015s.0_100280
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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