食と農の乖離を乗り越えるために

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タイトル別名
  • Towards the Regeneration of Food and Agriculture
  • 岐阜市における実態調査から
  • A Case Study of Gifu City

抄録

1.問題の所在と研究目的<br>2010年現在の産業別就業者数に占める第一次産業就業者の割合は4.0%に過ぎない。就業者比率の低さは、農業という産業や営み自体の弱体化を意味する とともに、農に関わる活動を日常生活から遠ざけることとなっている。さらに、食の外部化の進展は、外食や中食といった形で農産物を消費する傾向を高めている。食と農の間の距離が広がるとともに、農に対する人々の意識が希薄化する状況は、食と農の乖離や分断と称されるが、こうした事態を解消していくための一つの方向性として、消費者が農業や食のもつ意味や価値を主体的に再考していくことが求められる。本研究では、市街化区域内に多くの農地が包摂されている岐阜市を事例に、都市住民の農地や農産物、農業に対する評価や生産者との関わりの実態を把握するとともに、それらを踏まえて、食や農業に対する理解や生産振興に資する協力体制の構築の可能性について考察することを目的とする。<br><br>2.農家と都市住民の交流,消費者意識<br>岐阜市内の観光農園の入園者数は、2008年以降、タウン誌への割引券や園地情報の掲載により増加基調にある。また、農協の農産物直売所への来店者数およ び参加農家数、販売金額は開店以降、順調に増加している。岐阜市民の農産物の購入意識についても、2012年の市政モニター調査(N=146)を参照する と、「野菜などの農産物の購入のポイント」として、91.8%の回答者が「鮮度」を挙げ、「産地や生産者」(46.6%)・「低農薬・無農薬」 (30.8%)といった点についても関心の高い傾向がみられる。さらに、「野菜などの農産物の購入先」として44.5%の回答者が直売所を挙げている。岐 阜市内には20か所の朝市や直売所が存在し、常連客が開始時刻を前に立ち並ぶ光景は日常化しつつある。その意味では、生産者と 消費者の顔の見える交流は日を増すごとに活発になっているともいえる。<br><br>3.食と農の乖離を考える<br>次に同市長良地区での現地調査を基に、食と農の乖離について考察していきたい。農家への聞き取りでは、乳幼児をもつ近隣の母親から「消毒はなるべく…」と いったことを言われる場合や機械のエンジン音や肥料・消毒の臭いに加え、雨天時に雨粒がビニルに当たる音をどうにかして欲しいといった要望が寄せられる場合のあることが明らかとなった。住民は子どもを連れてブドウ狩りに訪れたり、地区内の朝市も盛況であるにも関わらず、ここでは、ブドウ狩りや直売の現場を 含む農業の置かれた環境は、依然として厳しい状況にあるという現実が浮かび上がってくる。すなわち、消費者は新鮮で安全・安心な農産物を喜んで購入するものの、自らの「快適な都市的生活」が日常的な農業活動によって乱されることは避けたいという心理がそこには垣間見られるのである。都市住民は、知識としては地産地消や身近な農地の重要性(必要性)を理解しているものの、食と農の乖離が進む中で、生産現場の実態や栽培過程に不可欠な作業の存在や重要性は捨象され、収穫された「モノ」にだけ興味をもつといった歪な状況が一部には生じているのである。<br><br>4.岐阜市内の農業関係者の取り組み<br> 岐阜市では、住民のニーズに対応した市民農園の開設や地産地消を推進するためのスイーツ教室等が開催されている。さらに、中心市街地においても農産物の直 売等が精力的に行われている。その他にも、地産地消を推進する飲食店等を「ぎふ~ど」として認定し、幟やステッカーを加盟店に配布している。政策レベルでも岐阜市地産地消推進計画を策定するなど積極的な取り組みがみられる。農協でも大学生を対象にしたブドウの援農プロジェクトを実施しており、2013年度 は50名を超える学生が参加している。さらに、岐阜市産のイチゴを用いたジャムの学校給食への試験的な供給や特産の枝豆の収穫体験等も行っている。農家レベルでも小学校の地域学習に協力し、農業体験学習のために農地を提供し、作業を児童にしてもらうような取り組みは既に30年近い歴史を有している。<br><br>5.まとめ<br>これまでみてきたように、岐阜市の農業関係者は多くの活動に積極的に取り組んでいる。今後は、こうした活動が機能的に結び付き、相互の連携や協力体制の構築を一層進めていくことが不可欠である。また、市民の啓蒙・啓発と農業振興や都市計画、観光まちづくり、教育・福祉政策が連動することで、都市農業のみならず、農のある都市としての岐阜市の付加価値や市民の暮らしにおける満足度が高まるといえる。そのための具体的な対策として、既に食に関心の高い層や市民農園等を通じて土に触れる機会を多くもつ住民層と無関心層とで宣伝・広報の方法や参加可能な企画の内容にバリエーションをもたせるといった工夫を行い、多 様な住民層を巻き込む活動や意識付けが重要になろう。<br><br>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205695585024
  • NII論文ID
    130005481441
  • DOI
    10.14866/ajg.2014a.0_132
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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