立地環境と履歴の異なる里山間での植生構造の比較研究

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  • Comparative study on vegetation structure between Satoyama forests with different site environments and history of human impact in central Japan
  • 愛知県海上の森と静岡県遊木の森の事例

抄録

中部日本太平洋側の丘陵地の自然植生は、本来、シイ・カシ類からなる常緑広葉樹林である。しかし、地域住民の日常生活等による植生利用によって、コナラなどの落葉広葉樹が優占する、いわゆる里山植生が形成された。しかし、その植生構造は必ずしも同一ではなく、地域によって異なっている。そこで本研究では、2つの地域の里山林を対象として植生構造の相違を明らかにすると共に、その相違をもたらした要因について、立地環境および伐採やナラ枯れ被害等による攪乱履歴の視点から考察する。<br> 研究対象地域は愛知県瀬戸市南東部に位置する海上の森と、静岡市の日本平に位置する遊木の森とする。温量指数(1987~2016年平均)は海上の森に隣接する豊田市が106、静岡市が142である。海上の森では花崗岩地域の標高約220mの北向き斜面(20m×20m:KP1)と標高約170mの南西向き谷頭部(30m×30m:KP2)に、遊木の森では更新世の高位段丘堆積物からなる標高約200mの南西斜面の2カ所に20m×20mの固定プロットYP1・YP2を設置した。各プロットで地形測量を行うと共に、20mプロットでは樹高1.3m以上、30mプロットでは樹高2m以上の全樹木を対象に、位置座標、樹種、胸高直径、樹高を記録した。本発表ではプロット間比較のため樹高2m以上の樹木を対象に分析を行う。毎木調査はKP1が2010、2011、2013、2015年、KP2が2012、2014、2016年、YP1とYP2は2013年以降2016年まで毎年行った。伐採履歴は、空中写真を用いて読み取った。なお、海上の森では2009、2010年に大規模なナラ枯れ被害が発生し、KP1では高木層をなしていたコナラの80%、KP2ではコナラとアベマキの33%が枯死している。<br> KP1ではナラ枯れ被害前(枯死木を含む2010年データから推定)の28種239本(常緑樹141本、落葉樹78本:上位からヒサカキ、ソヨゴ、リョウブ、コナラの順)から、2015年には28種227本(常緑樹152本、落葉樹58本:ヒサカキ、ソヨゴ、リョウブ、ヒノキの順)へ減少した。胸高断面積合計は28.9㎡/haから22.1㎡/haに減少した(常緑樹:7.5→10.4㎡/ha、落葉樹:16.7→8.1㎡/ha、被害前:コナラ、ソヨゴ、アカマツ、2015:ソヨゴ、リョウブ、コナラの順)。KP2ではナラ枯れ被害前(2012年データから推定)の22種521本(常緑樹369本、落葉樹144本)から、2016年には22種503本(常緑樹385本、落葉樹112本)へ減少した(いずれもヤブツバキ、リョウブ、ヒサカキの順)。胸高断面積合計は40.5㎡/haから35.1㎡/haへ減少した(常緑樹:6.2→7.9㎡/ha、落葉樹:32.5→26.7㎡/ha、被害前:コナラ、アベマキ、リョウブ、2016:アベマキ、コナラ、リョウブの順)。YP1では2013年の26種175本(常緑樹118本、落葉樹42本:カクレミノ、コナラ、タブノキの順)から2016年には26種248本(常緑樹172本、落葉樹58本:カクレミノ、コバノガマズミ、タブノキの順)へ増加した。胸高断面積合計は39.0㎡/haから41.9㎡/haへ増加した(常緑樹:10.5㎡/ha →12.6㎡/ha、落葉樹:22.9㎡/ha →25.3㎡/ha、いずれもコナラ、スダジイ、アカマツの順)。YP2では2013年の9種63本(常緑樹12本、落葉樹49本:コナラ、タブノキ、サカキおよびマルバアオダモの順)から2016年には27種191本(常緑樹30本、落葉樹156本:マルバアオダモ、コナラ、コバノガマズミの順)へ増加した。胸高断面積合計は20.6㎡/haから23.5㎡/haへ増加した(常緑樹:0.8→1.8㎡/ha、落葉樹:17.8→19.7㎡/ha、いずれもコナラ、アカマツ、タブノキの順)。<br> 中低木層の優占種は、KP1はヒサカキ、ソヨゴ(以上常緑)、リョウブ(落葉)、KP2はヤブツバキ(常緑)、ヒサカキ、リョウブ、YP1はカクレミノ(常緑)、ヒサカキ、コバノガマズミ(落葉)、YP2はマルバアオダモ(落葉)、コナラ(落葉)、コバノガマズミであった。<br> 遊木の森では1966~76年の間にYP1の一部を残し皆伐されたのに対し、海上の森では1948年以降大規模伐採は行われていない。YP2の樹木サイズが相対的に小さく、落葉樹の割合が高い要因はこの伐採の影響と考えられる。海上の森のKP1がKP2より樹木サイズが小さい要因としては、集落に近接するため住民による利用強度が高かった可能性を指摘できる。海上の森と遊木の森の中~低木層の優占種の相違は、上記の攪乱履歴に加え、気候条件、地質条件等の立地環境が影響している可能性がある。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205695600512
  • NII論文ID
    130005635712
  • DOI
    10.14866/ajg.2017s.0_100219
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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