土壌型と地形分類にみる埋没泥炭の炭素賦存量

DOI
  • 森下 瑞貴
    首都大学東京大学院 都市環境科学研究科 地理環境科学域
  • 川東 正幸
    首都大学東京大学院 都市環境科学研究科 地理環境科学域

書誌事項

タイトル別名
  • The estimation of carbon stock in buried peat based on the types of soils and landforms
  • ―農耕地土壌の理化学性データベースを利用した推定―

抄録

1.はじめに<br> 泥炭は湿原や湖沼で形成される有機質土壌であり、カーボンシンクとしての機能を持つ。日本では沖積または沿岸低地に広く分布し、その多くが埋没した状態で炭素を土壌中に貯蔵している。一方で、これらの埋没泥炭の分布域は農耕地として利用されている。農地排水は泥炭の酸化分解を促すことから、特に農地表層付近に存在する泥炭は炭素放出源になりやすいと考えられる。したがって、将来的な炭素循環予測において、人為因子の影響を受けやすい表層付近における泥炭の炭素賦存量の推定は重要な課題である。また、人為作用だけでなく堆積物供給が多い低地特有の土壌環境も泥炭の炭素賦存量を左右すると予測される。<br> 以上に関する基礎研究として、本発表では農地表層50cm以内に泥炭として存在する炭素の賦存量を土壌型および地形分類別に報告する。また、炭素賦存量と土壌環境の関係を、後述する『土壌断面データベース』の泥炭理化学性分析値を用いて考察した。<br><br>2.使用データ<br>2.1有機質土層の理化学性分析値<br> (国研)農研機構が提供する土壌断面データベースは、施肥改善調査事業(1953年~1961年,農林水産省による)の結果を記録しており、7000点を超える土壌断面の理化学性分析値を含む貴重なデータセットである。この中で、泥炭土、黒泥土、グライ土下層有機質、灰色低地土下層有機質(以下では、これらを有機質土壌と総称する)のいずれかに分類される土壌断面から理化学性分析値を抽出した。なお、全炭素量(重量あたり)が10%を超える層位を調査対象とした。単位面積当たりの表層50cmにおける炭素賦存量の算出にあたっては、容積重の分析値を用いて対象層位の全炭素量を体積あたりに換算し、各層位の層厚から50cm以内に存在する炭素量を求めた。<br>2.2 ポリゴンデータ<br> (国研)農研機構が提供する全国農地土壌図のGISデータを用いて、有機質土壌の農耕地における面積を算出した。また、国土交通省国土情報課が提供する20 万分の1土地分類基本調査(地形分類図)のうち、扇状地性低地、三角州性低地、ローム台地、山地・丘陵地、台地段丘のポリゴンデータを抽出し、それぞれが有機質土壌の分布域と重なる面積を算出した。これらの面積と2.1で求めた炭素賦存量(t/ha)の平均値を乗ずることにより、各土壌型または各地形分類の分布域に埋没する泥炭が表層50cm以内に貯蔵する炭素量を推定した。<br><br>3.土壌分類および地形分類ごとの炭素賦存量 <br> 農地に分布する有機質土壌の面積は31万haであり、その50cm以内における炭素賦存量は84.6Mtだった。この面積は、日本の泥炭土分布面積の約70%、農耕地面積の約6.5%にそれぞれ相当する。また、土壌分類ごとの炭素賦存量を比較すると、泥炭土が55.3Mt(318.6 t/ha)を占め、次いで黒泥土が20.4Mt(281.8 t/ha)だった。地形分類ごとに比較すると、低地に分布する有機質土壌の炭素賦存量が全体の80%以上を占め、三角州低地で35.8Mt、扇状地性低地で32.2Mtだった。一方で、単位面積あたりでは、扇状地における炭素賦存量(280.8 t/ha)の方が三角州性低地(269.4 t/ha)よりも高かった。これらの炭素貯留能を説明する因子の一つとして、無機画分中の砂質粒子の割合が炭素量に影響を及ぼすことが理化学性分析値から示唆された。泥炭中に含まれる無機物の粒径が粗くなると泥炭中の水分保持力が低下し、有機物の酸化分解が進行する。これと一致して、砂質粒子割合は黒泥土(32.5%)、三角州性低地(34.2%)に比べて、泥炭土(29.0%)、扇状地性低地(24.7%)で低くなっていた。また、無機物の粒径以外にも、炭素賦存量は人為的な排水または客土の程度に大きく左右される。そのため、今後は農地利用形態との関係にも着目した埋没泥炭の炭素賦存量の調査を予定している。<br>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205695602816
  • NII論文ID
    130005635716
  • DOI
    10.14866/ajg.2017s.0_100244
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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