有機農業に関わる女性の就農構造とネットワークの構築

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タイトル別名
  • Occupational structure of women in organic agricultural industry and development of their network
  • -関東地方における農業生産法人の事例から-
  • A case study of an agricultural production corporation in Kanto District

抄録

■研究目的<br> 現代の日本社会全体が抱える少子高齢化の問題は、農業・農村地域の高齢化・後継者不足においてより深刻な状況を呈している。農水省によれば、農業就業人口の平均年齢は66.2歳(2012年)、65歳以上が全体の62%を占め(2013年概数)、年々高齢化が進んでいる。それに対し、有機農業を営む農業者の平均年齢は59歳、40歳未満が9%という調査結果(MOA 自然農法文化事業団 2011)や、自分の代から農業を始めた新規参入が多いということを有機農家の特徴の一つとする調査報告がある(IFOAMジャパン オーガニックマーケット・リサーチプロジェクト 2010)。 環境問題に対する関心が高まる中で、環境保全を重視した農業への転換を国の農業生産全体ではかっていく方向性は、2011年4月より始まった環境保全型農業直接支援対策の趣旨にも明記されている。しかしながら耕地面積、農家数、出荷量全てにおいて、有機農業は未だ日本の農業全体の大きな潮流にはなっていない。時代の要請でもある環境保全型農業全体の拡大の可能性を探るため、本研究ではとくに有機農業に関わる女性農業生産者に着目し、その新規就農の実態、および就農を果たした彼女らを支える社会的な枠組み、さらにはネットワークの構築等について、関東地方における事例を中心に明らかにすることを目的とした。<br><br>■日本の女性有機生産者の就農に関する類型化<br> 日本各地でのヒアリングや現地調査等を通じて見いだされた女性の有機生産者の就農パターンについて分析、類型化した結果、主な類型として以下の5つが観察できた。伝統的農家の系譜として(1)伝統的婚姻型、(2)後継者型の2類型、非農家出身者によるまたは伝統的農家を後継しない形の就農として(3)新規就農・夫婦協力型、(4)新規就農・夫婦副業型、(5)農業法人就職型の3類型が認められた。現地調査にて実際に観察することは適わなかったが、(6)新規就農・単身型の存在も推定される。<br><br>■研究対象<br> 本研究では、上記の5類型のうち比較的新しい類型であり、今後の発展が期待される「農業法人就職型」に該当する事例を研究対象とし、栃木県において有機農業を営むN農場を取り上げることとする。N農場はバブル景気の時代に新規就農したN夫妻による家族経営農家に端を発し、2008年に法人化された有機生産者である。生産の9割を野菜の周年栽培で賄い、残りは小麦栽培や米の委託販売、自社加工品の販売を行なっている。主な取引先は野菜ボックスの定期販売(約270軒の個人・20軒のレストラン)、スーパーへの小売り等であり、今年からはさらに経営所得安定対策の対象作物の生産も開始した。農場の労働力は男性3名・女性5名(社員・役員・研修生・パート含む)である。<br><br>■農業法人へ就職・躍動する女性有機生産者たち<br> N農場の関係者に対して実施した現地調査等をもとに、女性有機生産者の就農の経緯・実態を把握するとともに、就農を支える社会的制度、地域社会の反応などを調査・検討した結果、以下の点が明らかになった。 まずAさん・Iさん姉妹の存在・雇用(就農)が法人化への大きな契機となっていた。N夫妻の子女からは後継者が現れなかった一方で、取引先を通じた縁で知り合い、有機農業での就農を熱望する彼女らの受け入れを機に、N農場は新たな農業経営を模索することとなった。また法人化を契機に、就農を希望する女性生産者の最初の受け皿・研修場所として大きな役割を果たすようになったことがうかがわれた。さらに農場での女性の多さは周辺地区からも注目されているという。N農場の場合、各種イベントを主催、あるいは地域イベントへの参加・広報などにおいて女性陣が積極的に行いながら、地域におけるネットワーク構築に繋げている様子がうかがわれた。<br><br>■アントレプルヌースと連携し合う女性農業者たち<br> 本研究に関する調査を通じ、彼女らと理念を共有し、緩やかなネットワークを構築しながら共に活動するアントレプルヌース(女性企業家)の存在が認められた。それは例えば地元のブーランジュリ(パン屋職人)であり、あるいはお菓子の店を東京に構えるパティシエールである。農場と彼女らとの協力の実態は有機農業や環境保全型農業のさらなる発展を期待させるものであった。<br><br>■文献<br>IFOAMジャパン オーガニックマーケット・リサーチプロジェクト 2010. 『日本におけるオーガニック・マーケット調査報告書』<br>MOA 自然農法文化事業団 2011. 『有機農業基礎データ作成事業報告書』<br>日本有機農業研究会 2012.『有機農産物の流通拡大のための実態調査報告』(平成 23 年度 生産環境総合対策事業有機農業総合支援事業 有機農業調査事業(実需者)報告書)

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205695633792
  • NII論文ID
    130005473505
  • DOI
    10.14866/ajg.2013a.0_100115
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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