小湊鉄道におけるイベント列車の利用実態に基づく改善案の検討
書誌事項
- タイトル別名
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- A Study on the Status of Passenger Use and Improvement Method for the Event Train in Kominato
説明
1. はじめに<br>わが国の地方鉄道では、沿線人口の減少、自動車交通への依存等により経営環境が悪化し、日常生活の鉄道利用では需要を満たせない路線では、観光に特化したイベントを展開する事例が増えている。地方鉄道に関する研究1)としては、経営分析に基づき活性化を提案するものはみられるが、活性化を目的としたイベントに関する研究は行われていない。そこで本研究では、利用者数が減少傾向にある千葉県の小湊鉄道に着目し、イベント参加者の実態評価に基づいた改善案の提案を目的とする。<br>2. 小湊鉄道におけるイベント列車の概要<br>小湊鉄道では年間を通じて12種類のイベントが実施されている。なかでも特徴的なイベントとして、懐石料理列車(以降、懐石と略す)と歌声列車(以降、歌声と略す)が挙げられる。懐石は、五井駅から養老渓谷駅までの約1時間を沿線の田園風景を楽しみながら車内で食事をするもので、復路のフリー乗車券もついている。歌声は約2時間半の往復を昭和時代の楽曲を唄いながら列車の旅を楽しむものである。<br>3. 参加者属性とイベントの満足度参加者の参加動機・目的等を把握するために、参加者を対象にアンケート調査を実施した。参加者の居住地は、懐石の約7割が市原市外であるのに対して、歌声の約7割は市内の方々であった。市外の内訳は千葉県内を中心に、列車の出発地である五井駅へのアクセスが容易な地域が挙げられている。参加の回数をみると、懐石参加者の9割以上が「初めて」に対し、歌声参加者の約6割は複数回参加のリピーターであった。また、参加回数においては、歌声参加者は家族との参加割合が高いが、懐石参加者は家族以外に友人・職場関係など幅広い客層で参加していることがわかった。すなわち、リピート率の高い家族・友人中心の地域密着型の歌声イベントと、市街からの職場・グループ等を対象とした"ひと旅(一度)"広域型の懐石イベントに差別化されていることが明らかとなった。両イベントにおける満足度を5点満点で評価した平均値を表3に示す。両イベントともに、4点である「やや満足」に近い結果が多数であり、イベント自体には満足感を得ている参加者が多いことが明らかになった。しかし、懐石の自由回答欄においては多くの要望が寄せられており、それらの要望は次の3種類に分類できる。<br>① イベント終了後のバス乗継時間が少ない:11名<br>② 食事ができる時間が短い:12名<br>③ 予約が取れない:6名<br>このように、歌声は参加者の満足度・リピーター割合が高く、参加者からの改善要望もないことから、参加者のニーズ・目的に合致したイベントといえる。一方、懐石は参加者の満足度は高いものの、具体的な改善要望が多く寄せられており、観光イベントとして更なる改善の余地がみられた。要望に対する改善案として、次の3つを提案する。<br>① 乗り継ぎ情報の提供<br>② 往復運行による食事時間の確保<br>③イベント列車運行回数の増加<br>4. まとめと今後の課題<br>本研究では、小湊鉄道におけるイベント参加者の属性と評価からイベントの実態と改善点を明らかにした。その結果、歌声は満足度とリピート率が高く、地域に根差したイベントであることが明らかとなった。しかし、懐石は遠方からの利用者が多いものの、改善の余地がみられたため、要望に即した改善案を提案し、実現可能性を問うた。今後の課題は、イベントに対する潜在的な需要を調査する必要がある。
収録刊行物
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- 日本地理学会発表要旨集
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日本地理学会発表要旨集 2013a (0), 100140-, 2013
公益社団法人 日本地理学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205695651712
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- NII論文ID
- 130005473558
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可