中学校における社会のあり方を考える地誌学習

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タイトル別名
  • Regional Geography Learning in Junior High Schools to Think About What Our Society Should Be

抄録

  地誌学習の教育的意義はどこにあるのだろうか。生徒に尋ねたところ,世界の諸地域を学ぶのは,将来の社会を考えるためという回答が多かった(荒井2013)。地誌学習の意義は他の地域の地域的特色を学ぶことではなく,かつて人々が旅人から学んだと同様に,他の地域から地域のよりよいあり方を考えるヒントを得ることにあるはずである。西脇(1993)も「地域に対する見方を陶冶し,様々な人間の生き方や社会のあり方を具体的な地域を通じて学習する」のが地誌学習であると述べている。<br> 欧米の地理教育は,「地理教育国際憲章」を踏まえて,地理認識の形成を通して,社会参加に資する市民的資質の育成を目指している。その際,多様な人々の立場や価値観を取り上げて話し合い,意思決定にせまっている。これは多様な人々の意見を調整して決定する民主主義のプロセスを学ぶことであり,市民的資質の育成の上で重要である。<br> 一方,日本では事実認識に止まり,価値認識に関する学習は避けられてきたと言える。授業では,問題点は把握しても,その解決を政府任せにするなど他人事としてきた。<br> 現行学習指導要領は社会参画を強調しているが,教科書を読むと,地誌学習では課題についての記述が乏しい。地理学習は人間と環境の関わり,また,地域と地域の関わりを考える点に特長があるのに,環境への影響や地域間の社会的公平性に関する記述が乏しい。教師は詳述された教科書の地誌的知識の指導に精一杯で,価値認識の育成については考えが及ばない。その地誌的知識についても,市民的資質として必要なそれか,疑問である。例えば北アメリカ州の企業的な農業を学習する場合,農業地域区分の学習は中学校段階で必要な地誌的知識なのだろうか?むしろ,自分たちの身の回りに多く見られる農産物の生産を取り上げて,その環境への影響や雇用労働者について考察する方が市民的資質の育成には重要であろう。また,各地域の学習のまとめでは,地誌的知識の整理に止めずに,その地域についてどう思うか話し合い,様々な視点から総合的にまとめるとよい。筆者は,イギリスの地誌学習を参考にして,発展の程度について話し合わせた。生徒は経済発展だけでなく,環境保全や社会的公平の視点からも意見を出した。多様な生徒が集まる「小さな社会」である学校では,話し合いを通して自分の意見をより高めることが意義深い。<br> 中1で学ぶ世界地誌では,異文化理解を通して多様な文化を尊重する態度を養うとともに,身近な輸入品等を通して,世界各地の様々な課題を取り上げ,それらを自分事として関心を高めさせたい。中2で学ぶ日本地誌では,地域の変化を取り上げて,その原因を考えて,それを多面的に評価する。できれば今後のあり方について,地域の様々な立場を踏まえて,多面的に考えさせることが望まれる。以上の世界と日本の地誌学習を踏まえて,「世界から見た日本の特色と課題」(現行では「課題」を含まない)を位置付け,世界的な視野から国家規模で日本のあり方を、人口や産業などの面から考察する。そして「身近な地域」の調査を踏まえて,ローカル規模で「身近な地域」の今後のあり方を議論すれば,主権者意識が高まると期待できるし,生徒が地理学習の社会的有用性を自覚して,地理学習に対する世間の評価も高まることも期待できる。<br>文献<br>荒井正剛 2013. 中学校における「世界の諸地域」学習のあり方―地域から学ぶ地誌学習―.新地理 61(1):18-26.<br>西脇保幸 1993. 『地理教育論序説―地球的市民性の育成をめざして』.二宮書店,169p.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205695667840
  • NII論文ID
    130005481460
  • DOI
    10.14866/ajg.2014a.0_160
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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