東京大都市圏における高級スーパーの展開過程

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  • The Developing Process of High-grade Supermarket in Tokyo Metropolitan Area

抄録

1.研究の背景<br> 日本の流通業界において,スーパーマーケットの台頭が注目されたのは,1960年代の「第一次流通革命」とされる.当時の日本は,高度経済成長期にあたり,国民所得の上昇に伴って,その購買力が大幅に拡大した.スーパーマーケットは,比較的均質な「ボリューム・ゾーン」を対象に販売して事業規模を拡大し,新たな業態として定着してきた.<br> しかし,2000 年頃になると,「社会の二極化」が進行したことで,スーパーマーケットの主な顧客層である大衆の分化が進んだとされる(荒井2005).それに伴い,小売業態も多様化が進み,安価な販売に特化するスーパー・センターや,高質食品の販売を主とする高級スーパーが注目されるに至った.その後,高級スーパーの店舗数は増加し,新たな小売業態として,定着しつつあるように思われる.<br> 地理学では,主に流通地理学の分野において,スーパーマーケット,ホームセンター,コンビニエンスストア等の業態別に,研究が進められてきた.そこでは,各業態の店舗の特性を整理したうえで,立地展開の過程を明らかにし,物流体系の実態分析を行う手順で,小売業態の検討を進めている.他方で,地理情報システムの研究においても,商業立地や商圏分析の観点から,小売業態が研究対象とされている.しかし,地理学において,高級スーパーの検討は,草野(2008),後藤(2004)等に限られており,実態は未だ明らかでない.本報告は,高級スーパーの立地展開の過程とその特徴を分析し,その業態特性について考察する.<br><br>2.高級スーパーの概要<br> 高級スーパーという用語は,複数の既存研究で用いられている.たとえば,後藤(2004)は,高級スーパーが対象とするのは,百貨店地下食料品売り場のような「高級・高価格市場」と価格競争を基本とする「低価格市場」の中間にあたる「高質市場」であり,一部の中堅スーパーが,このニーズを捉えて事業拡大を図ったと説明している.他方,草野(2008)は,業態の特性が立地環境に反映されるとの観点から,「ジオデモグラフィックス」を構築し,GISを用いて一般スーパーと高級スーパーの立地環境の違いを検討するとともに,複数の店舗を例示し,高級スーパーの価格帯が,一般のスーパーよりも高いことを実証した.このほか,流通論の分野では,片野(2014)が高級スーパーを扱い,一般のスーパーよりも商品が高価格であること,専門的知識を持つ従業員を配置し,輸入食品のワイン・チーズ,PB商品を多く販売することに特徴があると指摘している.<br> これらの既存研究や記事等において,高級スーパーとして例示されるのは,キノクニヤ,成城石井,クイーンズ伊勢丹,ザ・ガーデン自由が丘,ピーコックストア,阪急オアシス等で,いずれも,大都市圏を本拠とする小売チェーンである.このことは,高級スーパーが対象とする「高質市場」の市場規模が限られるため,人口規模が大きい大都市圏に限り,高級スーパー業態が成立することを示唆する.<br><br>3.立地展開の特徴<br> 高級スーパーは,従来において,中小小売資本や百貨店資本を中心に展開され,青山・成城・自由が丘等のいわゆる高級住宅街,あるいは,郊外住宅地の一部に立地する傾向がみられた.これは,高質性を差別化要因とする一方で,腐敗性の高い食品を販売するため,その商圏は狭く,立地の適地が限られていたことが影響したと考えられる.<br> しかし,近年になると,大手流通資本の傘下に入って,事業拡大を図る高級スーパーが存在している.従来の立地に加えて,ターミナル駅付近や大型商業施設内に,高級スーパーが店舗展開をするようになった.ここにおいて,従来からの経営方針を維持する企業と,経営方針を変更した企業に相違が生じている.また,個々の店舗をみると,規模や販売方針にも差がみられる.そこで,複数の高級スーパーのチェーンを取り上げて,立地展開の過程を比較することにより,高級スーパー業態の特性,近年の変容について明らかにする.なお,以上の分析について,詳細は報告時に議論したい.<br><br>荒井良雄 2005. 社会の二極化と消費の二極化. 経済地理学年報 51: 3–16.<br>片野浩一 2014. 小売業態フォーマットの漸進的イノベーションと持続的競争優位―クイーンズ伊勢丹の事例研究に基づいて. 流通研究 17: 75–96.<br>草野邦明 2008. ジオデモグラフィックスを用いた高級スーパーマーケットの立地分析: 東京都を事例として. 地理情報システム学会講演論文集17: 615–618.<br>後藤亜希子. 2004. 消費空間の「二極化」と新業態の台頭―高質志向スーパーとスーパー・センター. 荒井良雄・箸本健二編. 『日本の流通と都市空間』235-254. 古今書院.<br>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205695732864
  • NII論文ID
    130007018004
  • DOI
    10.14866/ajg.2016s.0_100279
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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