「破壊的」技術の経済地理学に向けて

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書誌事項

タイトル別名
  • Toward An Economic Geography of Disruptive Technology
  • VR,AR,360度映像の多産業活用を事例に
  • The Case of VR, AR and 360 Degree Video in Multiple Industrial Applications

抄録

1.研究目的<br> CG技術の成熟,国際分業の進展,税制優遇などの要因によってバンクーバーなどの新興クラスターが急成長しロサンゼルスのCG産業が衰退する傾向がある中で,VR(仮想現実),AR(拡張現実),360度映像が,新たな市場を開拓し産業を変革して成長を牽引する大きな可能性を持つ技術として脚光を浴びている.筆者は,2015年8月にCGの学会兼展示会であるSIGGRAPH(LA開催),11月にSIGGRAPH ASIA(神戸開催)等に参加して情報収集するとともに,LAや東京でVR等関連企業の現地調査を実施した.こうした調査に基づき,本研究では,AR,360度映像を含むVR関連技術を「破壊的」技術と位置づけ(Christensen,1997; Currah, 2007; Albors-Garrigos, 2014),現時点で確認できるVR関連技術の影響範囲を概観して,課題を整理し,その地理的含意と今後の可能性を考察することを目的とする(Schroeder et al.,2001; Huang et al.,2001; Howells and Bessant, 2012).   <br><br>2.第二次VRブーム <br> 「まるで現実であるかのように経験され,やり取りがなされるコンピューターで生成されたデジタル環境」と定義されるVR(=Virtual Reality)の歴史は古く19世紀に遡るとされ,1990年代に第一次VRブームがあり,現在第二次VRブームを迎えつつあるとされるが(Jerald, 2015),今VR等をめぐって起こりつつあることはインターネットやPCの登場に匹敵すると指摘する意見もある(ハリウッド映画VFXの重鎮Scott Ross氏のSIGGRAPH ASIAでの講演).ゴールドマン・サックス社はVR市場が2025年に12兆円規模になると予測している.実際「破壊的」になるかは推測の域を出ないものの,大きな影響の可能性への期待感は大きく高まっていると言える.SIGGRAPH 2015では,従来の“次世代技術(Emerging Technology)”に代わって”VR ビレッジ(VR Village)”という特設コーナーが設けられて半球のドームシアターが設置されるなど,VR関連技術への関心の高さが明確な展示スペースとなっていた.口頭発表関係でも,ゲーム・ライブ映像などのエンターテインメントから,科学教育,観光,スポーツ,医療,自動車産業まで様々なテーマが見られ,影響が広範囲の産業に及んでいることが確認された. <br><br>3.VR関連技術の商業的応用開始 <br> AR(=Augmented Reality)は現実世界にコンピューターで生成した要素を付加するものである.360度映像は,文字通り360度全方位で映像を見ることができるものであるが,現実の映像あるいはVRやAR映像を表示することになる.表示の仕方も,HMD(ヘッドマウントディスプレイ),ドームシアター,スマートフォンなど様々な方式が試みられているが,特にFacebookが20億ドルで買収したOculus VR社やSONYなどが続々とHMD製品を市場投入することなどから2016年がVR元年になると言われている.初音ミクのARによるライブは有名であるが,2015年には近畿日本ツーリストの「江戸城天守閣と日本橋復元3Dツアー」や,AR恐竜王国福井などARの観光応用への試みも始まっている.   <br><br>4.VR関連技術への期待と課題 <br> 今,VR関連技術が期待されるのは,①CG技術の成熟したハリウッド映画産業の閉塞感を打破する市場成長の牽引,②コンテンツ産業だけでなく,教育・観光・医療・製造業など様々な産業に及ぶ広い影響範囲,③大きな没入感による深い情報伝達効果,④ネット連携との親和性によりSNS活用によるユーザーイノベーションの可能性といった点があげられる.ただし,期待されながら十分な市場成長に至らなかった3Dテレビの二の舞になるのではないかという懸念もあり,①ゲームマニアを超えたHMD普及への一般家庭利用の障壁,②4Kテレビなどと比較した解像度の不足,③長時間利用時の快適性と電源の確保,④市場が不透明でビジネスモデルが不確定といった課題が存在する.   <br><br>5.VR関連技術イノベーションの経済地理学 VR関連技術の影響は,基礎研究,応用開発,生産,流通,消費というサプライチェーンの川上から川下までの各段階のレイヤー毎に立地傾向があるが,産業応用では各産業の立地分布に依存する.初期段階のイノベーションはアーリーアドプターのユーザー立地にも影響を受けると考えられ,日本のユーザー市場への関心が高まっていることは興味深い.VR関連技術が新たな地域観光需要を喚起するか,遠隔医療サービスを高度化し地域医療格差を解消するかなど地域振興との関連性も注目される.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205695734912
  • NII論文ID
    130007018007
  • DOI
    10.14866/ajg.2016s.0_100266
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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