小島嶼開発途上国における観光客数と費用に関する考察

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  • Some Consideration of Tourist Flow and The Cost of Tourist in SIDS

抄録

はじめに 本研究では小島嶼開発途上国(以下SIDS)を対象に観光客数および観光客一人当たりの消費額に関する分析を行った。SIDSとは国地球温暖化による海面上昇の被害を受けやすく,島国固有の問題(少人口,遠隔性,自然災害等)による脆弱性のために,持続可能な開発が困難だとされる小さな島国及び地域を指している(外務省ホームページ)。国連のリストによれば、おもに太平洋やカリブ海、アフリカに浮かぶ島々がメンバーとなっており、それらの島々は1990年代から定期的に会議を開き、温暖化による海面上昇の問題や貿易のような経済の課題等について話し合われている。SIDSを対象にした理由は観光産業がそれらの島にとって重要な産業であるからである。先行研究ではカリブ海や太平洋の島を対象に観光産業がそれらの島の経済成長に寄与していることが明らかにされている(Seetanah 2011)。このように観光産業が島嶼経済に影響していることが先行研究で明らかにされているが、さらに観光産業のサービスを受け手である観光客の流動や観光客の消費額を分析することは島嶼経済を議論する上で重要なことだと思われる。このような背景から研究の意義としてはSIDSを対象に観光客流動と費用に関する分析を行うことで、今後の島嶼経済が直面する課題に対して貢献できる可能性があることだと筆者は考えている。 データ  本研究で用いたデータはUNWTOが発行している観光統計である。公表されている期間は1995年から2013年であるが、国や地域によっては2011年以降の統計がとられていなかったため、本研究では対象期間を1995年から2010年とした。また、本研究で用いるデータは観光客数および観光客の消費額、平均の滞在泊数、宿泊施設の占有率、交通別の観光客数、目的別の観光客数とした。これらのデータが一年でも記載されている国や地域に絞って集めた結果、SIDSの中に27の国と地域が存在したた。それらの国を対象に分析を行った。また、一人当たりGDP、人口、人口密度といったデータは世界銀行およびIndexMundiのデータベースから引用した。 観光客数と観光客一人当たりの消費額 本研究では観光客数は統計資料の値を使用する。一方、費用に関しては観光客が年間に出費した額が統計書には記載されている。そこで16年間の費用の合計値と観光客数の平均値を求め、二つの変数間の相関係数を推計した。その結果0.976と高い正の相関が得られ、費用の値は観光客の規模に比例する関係がみられた。ところで、国内の付加価値の総額であるGDPは人口規模にある程度影響されることから、所得規模を表す経済指標としてはGDPを人口で除した一人当たりGDPを用いる場合がある。このことを援用して、観光客出費額を観光客数で割ることで観光客一人当たりの出費額と解釈することにした。 観光客数と観光客一人当たりの消費額の比較  二つのデータを値の大きい順に並べたときの5位までの国と地域を示したものである。この結果から観光客数の多い順はシンガポールのようなSIDSの中でもある程度、所得規模や人口が大きい島々示唆される。一方、観光客一人当たりの消費額は仏領ポリネシアのような一般的にリゾート島といわれる島々が垣間見える。  これらのことから観光客数はある程度地域の経済規模に比例することが予想される。これは重力モデルのような観光客流動を説明するモデルにおいても実証されている(例えば、Keum 2010など)。一方、観光客一人当たりの消費額はリゾート島のような観光地で大きい値をとる傾向にあることがわかった。一般的にリゾート島は人口や所得といった経済規模は大きくはないが、レクリエーション施設等が充実していることから、一人当たりの出費額が高くなる傾向にあることが結果から考察された。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205695760896
  • NII論文ID
    130007018017
  • DOI
    10.14866/ajg.2016s.0_100272
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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