オーストラリアにおける砂漠都市の特性とその存立基盤

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  • Characteristics and their Existence Foundation of the Desert cities in Australia

抄録

1.はじめに<br> 報告者らは,21世紀に懸念されている途上国での人口増加にともなう乾燥地での急速な都市開発の進展によって,発生が予測される諸問題とその解決策を探るため,アメリカ合衆国南西部を対象とした研究を行ってきた。そこでは,水資源ほか各種インフラ整備が充実した都市の大都市化と,鉱産資源の枯渇などにともなう小中心地のゴースト化の対照的な状況が確認された(山下・伊藤2012,山下・北川2014)。<br>それに対して,本研究で対象とするオーストラリアは,“少数の主要都市は近年世界有数のリバブル・シティとして高く評価されている。そうした大都市化を果たした主要都市以外にも,砂漠特有の存立基盤によって形成された小中心地が,当初の役割を終えた後も都市機能を維持し続けている例もある。そこで本研究では,変化する砂漠都市の存立基盤と,大都市化にともないリバビリティを向上させつつある主要都市とを対比しながら,それぞれの特性を明らかにすることを目的とする。<br><br>2.オーストラリアの都市開発の動向<br> オーストラリア大陸は,自然環境や歴史的経緯から居住可能な地域には制約があり,その結果水資源の確保が可能な都市地域への人口集中が進む傾向が早くからみられた。シドニーなど主要5大都市への人口集中度は1911年の40.3%から2006年には60.6%へとさらに上昇し,集落の分布は1911年には乾燥度の高い内陸部には確認されていなかったが,2006年には内陸部にも集落の分布域は拡大している。その代表的な砂漠都市アリス・スプリングス(以下,A. S.)には2012年現在約2.8万人が居住している。<br> 特定の都市に人口が集中化したオーストラリアでは,水資源問題が深刻化しており,市民生活レベルでの節水(シャワーの使用時間の制限,庭木への散水の制約など)では十分ではなく,淡水化プラントの建設や他地域からの水の輸送なども行われている。<br><br>3.オーストラリア都市のリバビリティ<br> 近年,オーストラリアの主要都市が世界のリバブル・シティのランキングで上位を占め,国際的に高い評価を受けている(EIU,Mercerなど)。オーストラリアの主要5都市はいずれも人口100万を超えているが,戦後のモータリゼーションの進展により,市街地の拡散的な拡大が進み課題となっていた。政府はこうした状況を改善すべく,21世紀型の持続可能で住みよい都市構造への転換を進めるため,公共交通網の再整備とそれを基盤とした土地利用開発の実施に取り組んだ。オーストラリア主要都市への高い評価は,そうした生活利便性の向上などが評価した結果と推察される。これらの主要都市と,そうした公共交通網の拡充などが困難な比較的人口規模の小さい都市との間には,生活利便性などの点での格差の拡大が生じることが考えられ,一部の大都市への人口集中と小都市の維持・発展が今後の課題となると考えられる。<br><br>4. 砂漠都市アリス・スプリングスの形成と存立基盤<br> A. S.は,1871年の電信線設置を契機に集落の形成が始まり,1929年の大陸縦断鉄道の駅設置により現在の位置に市街地が形成された。このようにA. S.の中心地形成当初の存立基盤は,通信・交通の要衝としての機能であった。現在は内陸部に広がる広大なアウトバックに居住する住民の生活支援のための重要な拠点である。例えば,1928年より病院から遠隔地に居住する患者を治療・移送するRoyal Flying Doctor Serviceや,1951年からは50km以上の通学を必要とする生徒にラジオ放送による授業を行うSchool of the Airなどのサービスの拠点ともなっている。またA. S.の南西郊には1988年に設置された“Pine Gap”と呼ばれる軍事衛星の管理施設もある。<br>以上のように,A. S.はアウトバックの中央に位置する地理的優位性を活かし,広範な地域の住民生活を支える重要な機能を保持している。A. S.の周辺に競合する主要都市が存在しないことは,こうした固有の機能を保持する上では有利な条件となっている。他方でA. S.は水資源の不足や他の主要都市から隔絶された地理的条件が他の産業発展の阻害要因にもなっている。<br><br> 本研究は,平成26~27年度鳥取大学乾燥地研究センター共同研究「オーストラリアにおける乾燥地都市開発の特性とその持続性に関する研究」の成果の一部である。<br><br>参考文献<br>山下博樹・伊藤悟(2012):アメリカ合衆国南西部における砂漠都市の盛衰とゴーストタウンの再生,日本地理学会発表要旨集No.81.p.191.<br>山下博樹・北川博史(2014):米国アリゾナ州における小規模中心地の盛衰とフェニックス都市圏の経済開発の特性,日本地理学会発表要旨集No.85.p.250.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205695820544
  • NII論文ID
    130007018050
  • DOI
    10.14866/ajg.2016s.0_100236
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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