乾燥地災害学の体系化(4)
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- 飯島 慈裕
- 三重大学・生物資源学研究科
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- 咏 梅
- 名古屋大学・環境学研究科
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- ナンディンツェツェグ バンズラグ
- 名古屋大学・環境学研究科
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- 篠田 雅人
- 名古屋大学・環境学研究科
書誌事項
- タイトル別名
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- Integrating dryland disaster science (4)
- 周辺地域への展開
- Extending analyses to neighboring regions
抄録
1. はじめに<br> 「乾燥地災害学の体系化」(略称、4Dプロジェクト)は、ユーラシア乾燥地に特徴的な4種類の自然災害である砂塵嵐、干ばつ、砂漠化、ゾド(寒雪害)を対象とし、これらの災害発生の季節連鎖、気候メモリ効果の相互作用系を解明しつつ、災害の重なり合いがもたらす社会的影響を分野横断的に解明し、具体的な対応策を提言する学融合研究である。主な対象地域をモンゴル国に集約して研究が進められてきたが、これらの災害をもたらす気候や陸面状態は、広くユーラシアのステップ地域に共通しており、地域をまたいだ災害現象の理解、その影響評価を行っている。<br> 本発表では、モンゴルで冬のゾドをもたらした寒気形成に関してカザフスタンと比較した事例、干ばつ年前後の植生変動にモンゴル・内モンゴル間で地域差がみられた事例を紹介し、4D災害の地域間比較とそれらへの対応の共通性について議論する。 <br><br> 2. 北極由来の寒気形成(カザフスタン地域との比較)<br> 2009/2010年冬季にモンゴルで発生したゾドは、12-2月にかけて毎月1、2度の頻度で、1週間程度持続する強い寒気形成が気候的にみた災害要因と考えられている(Iijima and Hori 2017)。そのトリガーは、北極からユーラシア大陸上空への寒気移流である。近年の北極海の海氷減少によって、バレンツ海での地上気温の南北勾配が北偏することで、シベリア高気圧が北西に張り出す。この気圧配置下で、中央アジア(カザフスタン周辺)に寒気が入り、東進してモンゴルにいたる事例が観察された(図1)。この一連の現象は、10日-半月程度で伝播するため、北極の気圧場の変調から、中央アジア付近の寒気の移流・蓄積にいたる過程は、ゾドの中期予報に重要な意味をもつ。 <br> また、地表面での強烈な寒気形成には、積雪被覆による放射冷却の促進も重要な意味をもつ。2009年12月初旬には、ユーラシア大陸、北緯40-50度の東西にわたって、積雪面積が平年より早く南進した。このため、寒気移流後の放射冷却が強化され、10日程度、安定した接地逆転層が持続した。このように、積雪面積拡大時期と寒気移流の組合せを考慮することで、より広域的なゾド予測が可能になる。 <br><br>3. 植生脆弱性のホットスポット (内モンゴル地域との比較)<br> 1999-2002年夏季に、モンゴルから内モンゴルにかけて広域で干ばつが発生した。干ばつにともなう植生の減少およびそれからの回復過程を調べるため、前者では干ばつに対する植生の敏感度を、後者は回復度を評価した(Shinoda et al. 2014)。<br> モンゴル・内モンゴルでは、砂漠ステップからステップ地域で敏感度よりも回復度が大きい傾向がある。この非対称な応答は、回復過程で一年生草本の増加が大きく、草原の種組成が変化したことに起因する。モンゴルに比べて内モンゴルではより強い回復度を示しており(図2; 第2象限方向のベクトル)、同様の種組成の変化に加えて、放牧の抑制による放牧圧の低下が関係しているものと考えられる。<br> 干ばつからの植生回復度が高い内モンゴル地域では、夏に続く冬~翌春に植物枯死体が地表面に残ることで、春先のダスト発生の臨界風速が上がるメモリ効果が確認されている(Yongmei et al. 投稿中)。モンゴル・ゴビ砂漠から内モンゴルにかけては、干ばつからの回復過程にある植生や土壌水分によるダスト抑制効果に地域差があるものと考えられ、砂塵嵐対策を行う場合、地域に応じて、植生回復度を高める要因とその効果の理解が重要となる。
収録刊行物
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- 日本地理学会発表要旨集
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日本地理学会発表要旨集 2017a (0), 100042-, 2017
公益社団法人 日本地理学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205695917696
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- NII論文ID
- 130006182611
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可