富士山の永久凍土分布について

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • Permafrost distribution on Mt. Fuji: A discussion

抄録

目的と方法 本研究の目的は、富士山の永久凍土の現状を解明し、その地温変化をモニタリングすることで、将来的に気候変化と火山活動の影響評価につなげることである。山頂部一帯で2008年から2地点の3 m深観測孔と20地点の表層(<1.2 m)の地温を通年で観測してきた。また、物理探査を行い、さらに2010年8月には深さ約10 mの地温観測孔を掘削した。2012年には、1969年まで火山性地熱活動が地表面において特定できた地点で、新たに深さ3.6 mの観測孔を掘削した。結果と考察 火山礫層と溶結層の互層に掘られた10 m深観測孔では、落雷により観測初年度のデータが欠落したが、2年度目になって通年の地温変動を示すデータが得られた。深さ1 mまでは夏季に融解したが、その下には年平均地温が-3℃前後の永久凍土層が確認された。これは実質的に富士山初の永久凍土の通年観測記録である。地温がかなり低いことから、その永久凍土は近年あるいは近未来の気候変動によらず長期的に維持されると考えられる(火山性の地熱活動が変化すれば、そのかぎりではない)。同地点は風衝地に位置しているため冬季に効果的に冷却されることと、夏季の降雨浸透による熱伝達がほとんど生じていないことがその低温状態を形成していた。また、同様に風衝地にあり、わずかに北を向いた3.6 m深の新観測孔では、季節的融解深が70 cmと非常に浅く、浅層にはすでに火山性地熱の影響が残っていないようであった。その他、山頂北面や西面の深さ約1 mの観測孔2地点でも同様の地温変動が観測された。 一方、同じく風衝地にある砂礫層中の3 m深観測孔では、2008年以降、秋季に必ず全層が融点を上回った。とくに9~10月の大雨(台風等)に伴って深部で地温が急激に上昇することが観測され、年によっては地温が0℃を大きく上回ることから、その地点には永久凍土が存在しないと考えられた。同様の昇温パターンは、別の1.2 m深観測孔や風背地2地点(3 m深と1 m深まで)でも観測された。融解期の地温変動が場所により2パターンに異なることは、難透水層の空間分布が不均一なためと考えられ、急激な昇温パターンが 観察された地盤は、透水性が非常によいと思われる。山頂火口周辺の風背地3地点のいずれにおいても、初夏には相対的に遅くまで残る積雪によって地温上昇が抑制されていたが、冬季の積雪によって地温低下がそれ以上に抑制されていた。つまり、風背地となる北東向きから東向きの斜面と、吹きだまりとなる顕著な凹状地には、おそらく標高によらず永久凍土がほぼ存在しない。 北斜面10地点、南斜面5地点の風衝地の地温データは、各方位において地表面温度の高度逓減率が気温の逓減率と概ね等しいことを示した。また、南斜面と北斜面の地表面温度を比較すると、同一標高の年平均地表面温度が北斜面で-2.5℃低かった。その温度差は日射量の差に起因すると考えられ、地表面の方位と傾斜から日射量の年間ポテンシャルを計算することで、積雪がほとんど無視できる場合の地表面温度の空間分布は推定できた。地下構造の異方性が大きいため、それのみで永久凍土分布を議論することは難しい。しかし、0.5 m深の年平均値が0℃を下回る標高が、北斜面において3100 mにあり、対応する年平均地表面温度-1~-2℃の場所が永久凍土帯下限のひとつの目安になると考えられた(富士山のように、地表付近の温度勾配が深部に向かって正の場合、浅層の年平均地温が0℃を上回る場所に永久凍土が存在する可能性は低い)。南斜面ではその温度帯が標高3450~3600 mにある。また、永久凍土帯の下限は、降雨の下方浸透が生じにくい(=昇温しにくい)地盤で構成されるはずであり、その下限の変動は気温変動に線形に応答すると予想される。測候所の気温記録から算出される積算暖度(夏季融解深の指標)は、1966~1997年が480±60℃・days(平均値±1σ)であったが、1998~2012年の最近15年間は580±50℃・daysとなり、90年代後半を境に顕著な温暖化を示している。同じ期間の年平均気温の平均値を比較すると0.7℃の昇温であり、それによって永久凍土帯下限は標高差100 m程度上昇する(現在、上昇中)と見込まれた。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205695936000
  • NII論文ID
    130005473208
  • DOI
    10.14866/ajg.2013s.0_265
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ