南アルプスの「お花畑」における30年間の植生変化とシカ害

DOI
  • 水野 一晴
    京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科

書誌事項

タイトル別名
  • Vegetation Change for 30 years and Damage by Deer Feeding in Alpine Meadow of the Southern Japan Alps

抄録

南アルプスの「お花畑」の植生について、1981-82年の調査と2011-12年の調査結果を比較し、その30年間の変化とその要因を検討する。<BR>三伏峠(2620m)の「お花畑」の植生は、1991-92年にはシナノキンバイ、ミヤマキンポウゲが優占し、他にカラマツソウ、ハクサンフウロ、タカネグンナイフウロ、ハクサンチドリ、マルタケブギ、ミヤマシシウド、オオカサモチなどが分布していた。しかし、2012年にはシカによる食害でかつての植生が破壊され、「お花畑」は柵で囲まれて保護されていた。柵の外ではバイケイソウが全体の50-70%を占め、その他にはホソバトリカブトやシロバナヘビイチゴなどが分布していた。バイケイソウやホソバトリカブトはシカが食べない植物であると考えられる。<BR>聖平(標高2370m)の「お花畑」の植生は、1991-92年にはニッコウキスゲが優占していたが、2011年には、保護されていた柵内でニッコウキスゲはわずかに見られるのみで、柵の外ではバイケイソウが30-50%を占め、他にホソバトリカブト、イワオトギリ、ミヤマキンポウゲなどが分布していた。<BR>北荒川岳横(標高2650m)の「お花畑」は、1981-82年のときは、7月下旬にシナノキンバイ、ミヤマキンポウゲ、タカネグンナイフウロなどが優占して開花し、8月になるとマルバタケブギが一面開花していた。しかし、2012年7月下旬には、70-90%を占めていたのはマルバタケブギであった。このように、三伏峠や聖平、北荒川岳横など、森林限界(標高約2650m)以下の「お花畑」の植生はシカによる食害の影響を大いに受けていた。<BR>一方、聖岳山頂と奥聖岳山頂の間の稜線にある線状凹地(標高2900m)の2011年の植生は、チングルマやガンコウラン、ミネズオウ、アオノツガザクラが植被率10-30%と優占し、他にコイワカガミ、タカネヤハズハハコ、ウサギギクなどが分布し、その植生は1981-82年の植生とほぼ同じであった。このことからシカによる食害は近年、森林限界付近まで影響が及んでいると考えられる。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205695937280
  • NII論文ID
    130005473209
  • DOI
    10.14866/ajg.2013s.0_264
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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