熊本地震に伴う阿蘇カルデラ内に出現した大規模亀裂帯の形成場と性状

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  • Formation Field and Geometry of Fissure Zone Emerged in the Aso-caldera in association with Kumamoto Earthquake

抄録

1.はじめに 熊本地震では、阿蘇カルデラ内の沖積低地に、側面に亀裂を伴った細長い地溝が形成された。地溝・亀裂の成因に関しては、地下に地すべり面を伴う地盤の側方流動・移動、地下空間の陥没、正断層地震断層など考えられている。本研究は、亀裂の形状を詳細に調査し、それに基づき性状を究明した上で、亀裂帯の形成場の地形・地質的な特徴を明らかにした。その結果、亀裂帯は支流と本流の地形・地層の境界に形成されていたことを示す。<br> 2.亀裂の形状と地溝の分類 :阿蘇谷に形成された地溝には、両側壁面に沿って上下変位を伴う開口亀裂が断続的に分布し、また地溝底面にも、複数の開口亀裂が出現している。開口亀裂の地表トレースは雁行状に分布し、地面はジグザグに割れている。 亀裂の形状について、開口の向きと量および上下変位に基づき詳細に調べた。地面に現れた亀裂は、①地面が2つに割れて開口している典型的な亀裂に加えて、②低下側の地盤が隆起側に向かって巻き上げられ、ブロックが回転した亀裂、③開口亀裂と開口亀裂の間に、ブロックが落ち込み、地盤が陥没した亀裂が認められた。②の回転型では、見かけ開口量が地表面で大きく、地下で狭いため、回転したブロックを変形前の元の形状に復元した後に開口量を見積もった。③の陥没型では、亀裂ごとに開口量を測定し、合算した。開口の向きはジグソーマッチングを行い、クリノメータで測定した。 その結果、開口の向きは概ね北西―南東である。狩尾では、地表流で扇端斜面の勾配が緩い場所があり、亀裂トレースが北東側に凸に曲がっている。そこでは北北東―南南西~西北西―東南東に開口方向の振りが大きくなるが、北西側に向かって開口向きに焦点箇所がある。開口量は最大約1.7mであり、LiDARとSAR情報の解析結果と調和する。 地震後にオートレベルで地形断面測量を実施し、地震前の5mメッシュ地形データと比較した。その結果、幅40m~200mの細長い地溝が認められた。上下変位は地溝側面で最大1.4mに達するが、この地溝帯を挟んで、両側の地盤には上下変位の差はなく、単純正断層帯を示唆する広域的ハーフグラーベンや断層面は認められない。したがって地溝は、開口亀裂で限られた陥没である。<br> 3.亀裂帯形成場の地形的特徴:空中写真の判読によって地形分類図を作成した。中央火口丘の山麓には、合成扇状地が分布する。扇状地は段丘化し、山麓には沖積谷が認められる。阿蘇谷平野には、北西方向に広がる扇状地が分布し、阿蘇谷平野には複合扇状地が形成されている。扇端の地形は舌状を呈し、本流・黒川沿いの沖積低地との境界線はこれを反映して曲がりを伴う。扇端部は緩い斜面になっており、その幅は約50m~500m、勾配は約1%~2%である。黒川は蛇行しながら、阿蘇谷を南西方向に流れる。黒川沿いには、勾配の極めて緩い氾濫原および低位段丘が分布し、こうした沖積低地には流路跡も認められる。亀裂帯は、正に、この沖積低地と扇状地の境界に沿って分布している。<br>4.亀裂帯形成地域の地質的特徴 狩尾地区では、支流の乙姫川に沿って6地点のボーリング情報がある(九州地盤データベース、2005; 2012)。北西側から南東の順に地点1~6とすると、1~5は本流の沖積低地に位置し、扇状地には6がある。地点4の柱状図は深度69.0mまであり、その層序は深部から浅部に向かって順に深度65.2~69.0m:上部に厚さ0.2mの風化帯を伴った安山岩(N値>50)、深度61.1~65.2m:軽石を含むシルト質砂(N値9~>50)、深度16.0~65.2m:砂とシルトの混じる粘土(N値1~3)、深度5.4~16.0m:シルト質粘土層を挟む砂層(N値22~>50)、深度0.8~5.4m:ローム(N値2~15)および0~深度0.8m:表土からなる。地点6では、砂層主体のやや硬質な砂地盤であり、深度52mまで砂礫層を挟むシルト層(N値<1~6)と砂層(N値6~>50)の互層が認められた。 地下層序は、地形を極めてよく反映し、本流沖積低地の地下には、硬質の安山岩の上に軟弱な粘土層が厚く堆積する。河川が流れる以前の湖底堆積物と推定される。これに対して、扇状地の地下には、やや硬質な砂層が堆積する。砂層は段丘堆積物に対比され、扇状地層と判断される。開口亀裂の位置は粘土層と砂層の地質境界とほぼ合致する。我々は、亀裂が地質境界のある地下約65mまで伸びる可能性を示す。 内牧では、地震時に温泉ボーリング孔が深度約50mで系統的に曲げられたことから、Tsuji et al.(2017)はこの深さに水平なすべり面の存在を推定した。狩尾でも安山岩風化帯の深度65.5mよりも浅い場所で、亀裂のある地質境界を堺目に水平すべりが生じている可能性がある。 

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205696006272
  • NII論文ID
    130006182669
  • DOI
    10.14866/ajg.2017a.0_100062
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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