濃尾平野におけるデルタの前進と堆積土砂量の変動

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  • Delta progradation and variation in sediment storage of the Nobi Plain, central Japan

抄録

世界の多くのデルタは、海水準の上昇速度が減速した約8500~6500年前に前進を開始している(Stanley and Warne 1994)。しかし、前進が開始した時期には2000年程度の幅が見られる。このようにデルタの前進する時期に差が生じるのは、海水準の上昇速度のみならず、堆積物の供給量もデルタの前進する時期を決定しているからである(増田 2007)。河川からデルタに供給される土砂量の変動は、地形や堆積物の解析から推定された過去の海岸線やデルタフロントの位置などから検討されてきた(たとえば、Hori et al. 2001;小野 2004)。しかし、これまでの研究では1000年スケールにおけるデルタの前進を三次元でとらえていないため、堆積土砂量およびその変動に関する定量的な議論は十分になされていない。そこで、本研究は、濃尾平野を対象に、既存ボーリング柱状図や放射性炭素年代値のデータを空間解析することにより、デルタの前進を三次元で把握し、堆積土砂量の時系列変化を質量として見積もることを試みた。濃尾平野の沖積層を、既存ボーリング柱状図(約4500本)の土質区分とN値に基づいて、下位から、基底礫層(BG)、下部砂層(LS)、中部泥層(MM)、上部砂層(US)、沖積陸成層(TM)、人工改変層(Artificial deformed layer:以下AD)の6層に区分し、地表面・各層序境界面の標高データベースを作成した。次に、既存研究(たとえば、山口ほか 2003;大上ほか 2009)および本研究で得られた合計324個の14C年代値の暦年較正値を利用して、各ボーリング地点における1000年ごとの等時間面標高データベースを作成した。これらのデータベースを基に、ArcGIS 3D Analystのクリギングを用いて、地表面・各層序境界面および等時間面サーフェスモデルを作成した。最終的に、各サーフェスモデル間で切り盛りをし、6000 cal BP以降の各層序の体積を求め、これらの体積計算結果と容積重を用いて、堆積土砂量を質量として推定した。容積重は、各自治体の地質調査報告書に記された値から各層序の平均値を算出した。なお、作成した等時間面サーフェスモデルでは、濃尾平野全域(約1300 km2)における体積の見積もりができないため、そのうち721.6 km2を体積計算の対象とした。また、各サーフェスモデルを用いて、時代ごとのMM、US、TMの堆積域を検討した。等時間面サーフェスモデルから得られる標高変化やコア堆積物が得られている地点の層相変化から、8000 cal BP頃にデルタ堆積物の堆積が始まったと考えられる。また、USの堆積域の海側末端部の位置に基づいて、6000 cal BP以降における1000年ごとのデルタの前進速度を算出したところ、それぞれ約5 m/yr、8 m/yr、4 m/yr、7 m/yr、6 m/yr、9 m/yrとなった。対象範囲721.6 km2における過去6000年間の堆積土砂量は18766 Tgと見積もられた。6000 cal BP以降における1000年ごとの堆積土砂量は、それぞれ2471 Tg、2558 Tg、3659 Tg、2736 Tg、3167 Tg、4174 Tgとなった(図1)。層序ごとに見ると、MMの堆積量は減少傾向にあるが、これはデルタの前進に伴って対象範囲外の海側に堆積するようになったMMの量が見積もられていないためと考えられる。また、USの堆積量は、4000 cal BP以前と以後とで大きく異なっている。この原因として、4000 cal BP以前には対象範囲外の陸側にUSに相当する土砂が堆積していた可能性や、4000 cal BP頃に土砂供給量がそれ以前に比べて顕著に増加した可能性が挙げられる。4000 cal BP以降、USの堆積量は大きく変動していないのに対して、TMの堆積量は増加し、特に2000 cal BP以降の増加が顕著である。デルタの前進速度は大きく変化していないため、デルタフロント堆積物に相当するUSの堆積量はあまり変化しないが、陸上デルタの面積が広がることにより、陸成層を含むTMの堆積量が大幅に増加したと考えられる。また、1000 cal BP以降は、土砂供給量そのものがそれ以前に比べて増加した可能性が高く、上流域の環境変化に伴い、砕屑物が大量に生産されたことを示唆する。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205696039168
  • NII論文ID
    130005457327
  • DOI
    10.14866/ajg.2013s.0_103
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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