住み継がれる集落をつくる

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タイトル別名
  • Creating the Sustainable Village
  • 日本建築学会での議論から
  • Based on a Discussion in the Architectural Institute of Japan

抄録

人口減少社会のなか,集落の限界や自治体の消滅可能性が懸念され,近年は「地方創生」政策のもと人口獲得競争ともいえる局面にある。いたずらに危機感をあおる論が展開され,わかりやすい成果が早急に求められ,地域の人々の暮らしを見通す上での不安感が助長されている。こうした社会情勢の中,計画を担う学問分野としてなにができるのか。地域の人々の地道な取り組みや,地域を住み継ぐ意思を支援し,地域が住み継がれるカタチを社会で共有し,未来を展望するビジョンを描く必要があるのではないか。 日本建築学会・農村計画委員会内の集落居住小委員会では,2012年度より,8回の公開研究会と2回の研究協議会を開催し,上記の課題を議論してきた。その過程で,山崎義人(東洋大学)より,「縮み方のシナリオ」が示された。これまで住み継ぐ主体として生活拠点を地域に置いている「常住住民」が前提であったが,住んでいる人を黄身に,ご縁のある外部の人を白身にとして「目玉焼き」に例え,常住住民が積極的に外部と連携して交流を展開することで,常住住民が減っても地域活動量(ご縁の量)を落とさないようにするのが「縮み方のシナリオ」である。 この「縮み方のシナリオ」をもとに,どう住まい,いかに継がれていくべきかという課題設定と地方移住の構造的変化を概観した後,4つの観点から各委員が関わる全国事例が整理された。 まず,空き家の利活用を観点に,空き家に地域や外部支援者,移住者が関わることで住まいが住み継がれている事例がある。大分県国東市伊美,福島市志賀島,熊本市中緑校区,福井県美浜町・鹿児島県頴娃町の事例が該当する。 次に,担い手の「通い」に着目し,人口減少や大雪,災害を契機に転出した他出者が,地域への「通い」によって集落を住み継いでいる事例がある。兵庫県但馬地域,長野県栄村・北海道旭川市西神楽,新潟県長岡市山古志地域,宮城県石巻市十五浜,山梨県早川町が該当する。 また,地域を支える「枠組み」の観点から,集落を支える主体(組織)のあり方を工夫することで,集落のなりわいや結果として立ち現れる風景の継承に取り組んでいる事例がある。兵庫県篠山市集落丸山,兵庫県神河町,広島県小佐木島・百島の事例が該当する。 そして,移住者を受け入れる「戦略」に着目し,受け入れの仕組みづくりに取り組んでいる事例がある。徳島県佐那河内村,和歌山県紀美野町の事例が該当する。 最後に,これらの事例で得られた知見がまとめられている。 全国的な人口減少局面のなか,なかなか先を見通すことは難しい。結果,意思決定は先延ばしにされ,資産は流動化せず,私有財産としての空き家は地域のストックにはならずに朽ち果て,集落が荒廃している。 そこで意思決定可能な期間に時限を区切ることで,先の見えない時代でも意思決定を可能にすることができる。兵庫県篠山市では,10年という時限を区切ることで集落住民によるNPOが農家民宿事業を始めることができ,兵庫県神河町の事例で「セットアップモデル」とされているように,2年で解散することを規定に盛り込んだLLPにより生業が再生され,次世代に継承することが企図されている。こうした時限を区切った意思決定により,次世代に住まい,生業,集落を継承し,その可能性をいわば積極的に先送りする。途中でバトンがこぼれ落ちることもあるかもしれないが,次の世代に継承の可能性を広げ,選択を託す。こうした将来の可能性に向けて,丁寧にバトンを渡していくことが「住み継ぐ」ということではないだろうか。  

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205696097536
  • NII論文ID
    130006182704
  • DOI
    10.14866/ajg.2017a.0_100104
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
    • KAKEN
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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