ルーマニア,南カルパチア山脈における羊の移牧と土壌侵食
書誌事項
- タイトル別名
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- Soil Erosion by sheep transhumance in South Carpathian Mts., Romania
説明
Ⅰ 研究目的 ルーマニアでは,1989年の革命による社会主義経済の崩壊と2007年のEU加盟という社会構造の変化を経て,移牧の様式が変化してきた.本研究では,移牧に伴う土地荒廃の変化に着目し,2003年からおこなった土壌侵食量の計測結果を報告する.Ⅱ 地域概要および計測方法調査対象は南カルパチア山脈にある3段の準平原面のうち,ゴルノビタ準平原面にあたるジーナ村(標高約1000m)と最上位の山頂部(ボラスク面,標高約2100m)の2地点でおこなった.対象地域を構成する基盤岩はプレカンブリア時代の結晶片岩であり,風化層は薄く土壌の発達は悪い.1)ジーナ村における土壌侵食量の計測計測は,ガリー侵食が生じている場所を定点観測地としておこなった.2003~2004,2007~2011年にかけて,1年毎に地形断面を計測した.さらに,調査地周辺(標高988mの草地)において転倒ます型雨量計を設置し,降水量の観測を2003年9月19日~2005年7月15日におこなった.2)山頂部における礫の移動 チンドレル山地において,羊の移動ルートになっている草地上に3か所の方形区を設置し,2007年9月~2011年8月までの礫の動きを計測した。Ⅲ 土壌侵食量および礫の移動の計測結果 1)ジーナ村のガリー侵食地における9年間の縦断面形計測の結果を図1に示した.谷頭部は2003年から2004年に1m後退し,2007年にはさらに1m後退した.2008年は,表層の土壌が若干動いたに過ぎなかった.2009年には基盤岩が谷壁に露出し始め,谷頭部の後退は停止した.谷底の各遷急点においては,谷頭部と同様に,基盤岩が露出すると後退が停止し,その位置がその後も変化しないという規則性がみられた.例えば,図中②における遷急点では2003年から2009年にかけて約50cmずつ後退し,2009年に基盤が露出すると,その後は後退が停止した.また,降水量を観測した結果,年降水量は約640mmであり,日降水量が20mmを超える日が年に8回みられた.2)山頂部における羊の移動ルートにおいて,EU加盟後の4年間の礫の移動を調べた結果,山頂部では礫の移動は少なく,草本の被覆も安定していることがわかった. Ⅳ 結論プレカンブリア時代の結晶片岩から成る草地においては,基盤を構成する岩石は風化の進行が極めて遅いため,一度基盤が露出すると長時間にわたり植生が回復しない.ゴルノビタ準平原面におけるガリー侵食の計測から,羊の踏圧によって土壌侵食は進行し,基盤岩が露出すると谷頭部の侵食が止まることがわかった.降水量の観測結果より,調査地域の乾燥した気候下において発生する降水頻度と降雨強度が,土壌侵食に影響を及ぼすことが考えられる.一方2007年のEU加盟後,対象地域では羊の頭数が減少(すなわち,踏圧のストレスが減少)傾向にあり,2010年の計測において,土砂の堆積地では部分的ではあるが草の定着がみられ,植生が回復しつつある状況が確認された. さらに山頂部においては,EU加盟後,移動する羊の頭数が減少したため,移牧ルートにおける礫の移動はほとんど見られない.草地に与える羊のストレスは少ないことがわかった.
収録刊行物
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- 日本地理学会発表要旨集
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日本地理学会発表要旨集 2012a (0), 100025-, 2012
公益社団法人 日本地理学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205696267008
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- NII論文ID
- 130005456926
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可