観光客の行動と目線を考慮した観光案内図の必要性

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  • The Need for Making a Sightseeing-Information Board Visible to the Tourists and Appropriate for Their Activities

抄録

Ⅰ 本報告の背景とねらい<BR> 歴史都市を散策する「まち歩き観光」は、古くから老若男女を問わず人気を博してきた。近年では、従来「まち歩き観光」が盛んでなかった地域でも、地域資源を巡るまち歩きによって誘客を図ろうとする動きが広がっている。またインバウンドの促進により、まち歩きをする外国人も増加してきた。<BR> 「まち歩き観光」で求められるのが、散策コースや観光スポットの位置を人々にわかりやすく知らせる観光案内である。「まち歩き観光」を推進する自治体等のなかには、街頭にある観光案内図の整備に力を入れるところも増えてきた。しかし観光案内図のなかには、地図表現に問題があるなど、観光客に的確に情報を伝える役割を果たさないものも目立つ。<BR> 本研究では、街角に設置する観光案内サインの整備に力を入れてきた金沢市と京都市の事例を中心に、観光案内図の問題点とその改善に向けた取り組みを考察し、観光客にとって「わかりやすい観光案内図」に求められる要件を探った。<BR><BR>Ⅱ 金沢市における観光案内サインの整備と問題点<BR> 金沢市は従来、観光案内図や市街図等を課ごとに作成しており、デザインもスケールも不統一であった。また、地図の更新は行っていなかったため、情報が古い地図や汚損した地図も多く、観光客から多くの苦情が寄せられていた。<BR> こうした状況を憂慮した金沢市では、2008年から観光客にもわかりやすい案内図づくりの指針を定め、地図や矢印サイン、歴史説明板等のピクト、文字の大きさや書式、色彩、図面サイズ、地上高等の統一を図った。地図はどこに設置する場合でも正面に見ている方角が上になるようし、表示範囲も観光客が徒歩で行ける範囲を考慮して1km四方とした。<BR> 金沢市は、同時に地図に掲載する情報やマスターマップを課ごとに管理する「縦割り方式」をやめ、景観政策課がとりまとめるようにした。景観政策課では各課から集まった地形・道路・観光地等の情報を収集し、それらをマスターマップ上に盛り込んで地図を作成する。地図は汚損や情報変更の有無に関係なく2年に1度定期更新する。<BR> 本研究では、金沢市が設置した地図が観光客にとって本当にわかりやすいのかを検証するため、観光客100名に聞き取り調査を実施した。また、兼六園下から兼六園に向かう紺屋坂に設置された3枚の観光案内図を観光客の動線上のあらゆる方向から撮影し、見やすさを検証した。<BR> ヒアリング調査の結果、地図の色彩、表示情報、見ている方角を上にした点、目線からみた高さについては大部分の観光客が「わかりやすい」と評価していた。一方、表示範囲に関しては半数の観光客が「他の観光地や駅の位置がわからない」、「広域案内図が必要」と回答した。<BR> また、撮影した写真の分析からは、①案内図の裏側が空白であるため、後方からは地図だと気づかない、②側方から見ると、地図の表示面はまったく見えない、③市以外が設置した案内板や周辺の木々に囲まれ、案内板が観光客の目線に入らない、といった問題点が明らかになった。<BR><BR>Ⅲ 観光客の行動や目線を考えた京都市の観光案内サインアップグレード<BR> 京都市街地は道路が直交していて交差点に特徴がないため、現在位置が把握しにくいことが指摘されていた。また、既存の観光案内図は地名等を4カ国語で表記した結果、寺社等が密集する地域では地図が文字で埋まってしまい、肝心の目的地がわからない状態となっていた。<BR> 京都市ではこうした問題を解消するため、「シンプルで、わかりやすく、京都の町並みに調和した」観光案内サインの設置を検討すべく、平成22年度に「観光案内標識アップグレード検討委員会」を設置した。平成23年度末からは、委員会で策定したガイドラインに基づいた観光案内サインの設置が進められている。観光案内図を含む観光案内板は、日本語と英語のみで観光地や通り名・建物名等を表記するシンプルなデザインに変更された。案内板から徒歩で行ける観光地までの所要時間も表示した。<BR> また、金沢市の案内図に関して指摘した諸問題も、a.遠い観光地間までの移動は徒歩でなく公共交通機関を使うと考え、市内の地下鉄・鉄道路線図を案内図の下に入れる、b.目線に入りやすい地下鉄の出口正面や横断歩道横に設置する、c.案内板の面と垂直方向に「iマーク」を表示して、側方からくる人にも一目で案内板の存在がわかるようにする、d.案内板の裏面に巨大な矢印表示を配置することで、反対側の歩道から横断歩道を渡ってくる人にも一目で案内版だとわかるようにする、といった配慮をすることで解決している。今後観光案内図を設置する地域においても、京都市のように観光客の行動や目線を考慮した案内図づくりが必要といえよう。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205696277248
  • NII論文ID
    130005473237
  • DOI
    10.14866/ajg.2013s.0_208
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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