地方中枢都市における広告産業の構造変容

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書誌事項

タイトル別名
  • Structural changes of advertising industry in regional capital cities
  • 福岡市を事例として
  • A case of Fukuoka City

抄録

1.はじめに<BR> 日本の広告産業は,市場の停滞,メディアの多様化,グローバル化,業界再編といった大きな転換期を迎えている.こうした変化は,各都市の広告産業の構造,さらには東京一極集中の構造に変化を引き起こすと考えられる.日本の地理学においては,広告産業の東京への一極集中が指摘される一方で,大都市圏以外の広告産業に取り上げた研究は,石丸(1998)が挙げられるものの少ない.近年,欧米ではクリエイティブ産業が活発に議論される中で,世界都市とは異なるローカルな地域特性に着目し,新たな産業集積の動態に焦点を当てた研究がみられる.<BR> そこで,本発表では,地方中枢都市の広告産業がどのように変化してきているのかを,福岡市を事例として,主に組織と取引関係に着目して明らかにすることを目的とする.本研究では,2012年8月下旬から11月初めにかけて,iタウンページから抽出した福岡市の広告関連事業所を対象として,アンケートおよび聞取り調査を実施した.<BR><BR>2.福岡市の広告産業の概況<BR> 対象地域である福岡市は,『平成21年経済センサス』によると,広告業の事業所数が357(対全国比3.1%),従業者数は3,881人(同2.9%)であり,地方都市では最も多い.iタウンページから抽出した広告関連事業所の分布をみると,中洲・天神地区から大名,赤坂などの都心周辺地区,JR博多駅周辺へと集積地域が拡がっている.『平成22年特定サービス産業実態調査報告書(広告業編)』によれば,福岡県の数値でみると広告業務の年間売上高が3,445億円(同4.1%)であり,業務種類別の構成では「折込み・ダイレクトメール」の割合が高いという特徴がある.<BR> 戦後,新興夕刊紙の創刊や,放送局の開局に伴い,福岡市に新たに広告代理店が設立され,また東京に拠点を構える広告代理店が進出した.福岡市を含め九州の広告市場の特徴として,域内の広告需要を上回る広告媒体があるために,広告代理店間および媒体間の競争は激しかったとされる.また,1960年代には九州の地場企業が市場拡大を求め東京へ進出する中で,地方の広告市場の限定性も指摘される.<BR> 1990年代以降になると,一部の大手広告会社が地方の支社を分社化し地域子会社とする動きが見られ,競争環境に大きな変化が見られる.近年では,九州の通販会社との取引を通じてノウハウを獲得し,域外からの受注を獲得する広告会社もみられるようになった.<BR><BR>3.調査結果<BR> 本研究で明らかとなった点は,以下の4点に集約される.<BR> 第1に,広告代理店と広告制作会社間の関係に変化が生じている.従来,地方では広告制作会社の広告代理店への依存度が高いことが指摘されていた.しかし,回答事業所の中には,広告代理業からの撤退や,広告制作会社が広告代理業へ参入する事例がみられ,広告産業の従来の棲み分けが崩れつつある点が明らかとなった.<BR> 第2に,福岡市の広告業の年間売上高に占めるインターネット広告の存在感が増す中で,回答事業所の多くは,事業所内にウェブ部門を立ち上げて対応するケースがみられる.紙媒体の広告制作からウェブ制作へ移行したり,事業所内にプログラマーを配しシステム構築を含めた内製化の体制を整えたりする事例がみられた.<BR> 第3に,広告市場の停滞から,広告制作部門の縮小を余儀なくされるケースがある.近年の不景気に加え,支店における広告予算の縮小のため,受注が減少し,福岡市の広告市場の限定性に拍車がかかっている.その結果,広告代理業の中には制作部門を縮小し,広告制作を外注に切り替えることで,人件費を抑制している.また,広告制作業も,企業間の競争の激しさから,制作単価の値下げが著しく,社内で制作人員を抱えることが厳しい傾向にある.<BR> 第4に,取引関係の地理的範囲は,基本的に九州が中心であるものの,東京との取引関係を持つ企業が存在することが明らかとなった.回答事業所の取引関係は九州の割合が高く,とりわけ広告制作業の場合は福岡市内で完結する事業所が多い.これは,福岡市内に立地する広告会社からの受注が多いためと考えられる.一方で,広告制作会社の中には東京の企業から受注する企業もみられる.この背景には,情報技術の発達に伴い,遠距離であってもコミュニケーションがし易くなった点,東京に比べ制作単価が低い点がある.<BR> 福岡市の広告産業は,支店経済という性格から広告市場の規模は東京に比べると小さいが,近年では東京の企業から受注する事業所が現れるなど,新たな展開が芽生えつつある.当日の発表では,以上の点について,具体的なデータをもとに報告する.<BR><BR>【参考文献】<BR>石丸哲史 1998. 事業所サービス機能の配置と都市システムの再編成―わが国を事例として. 森川 洋編著『都市と地域構造』139-160. 大明堂.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205696318720
  • NII論文ID
    130005473185
  • DOI
    10.14866/ajg.2013s.0_180
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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