農業生産とネットワークと空間

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • Agricultural Production, Farmers' Network and Space
  • 機械共有と堆肥調達,出荷を取り上げて
  • Focus on Common Machine, Compost Supplying, and Trade

抄録

1.研究目的既存研究から,農家や農協,その他関連団体などの多様な主体間関係から形成された様々なネットワークの存在が「産地の工夫・戦略」として農業生産の維持や拡大に寄与していることが示されてきた。一方,それらの主体がいかなる関係性を基礎にしてネットワークを複相的に形成してきたのかは十分に検討されていない。それらのネットワークが農業生産活動の各段階に応じて,それぞれの果たす役割を相対化していくことも求められる。そこで本発表では,周年的に集約的な露地野菜作が卓越する淡路島三原平野を事例に,各農家の農業生産,とくに農業機械の共有と堆肥の調達,出荷の方法が,主体間のいかなる関係性のもとに展開しているのかを分析することから,それぞれのネットワークの広がりや性質の差異が農業生産にいかに作用しているのかを明らかにすることを目的とする。研究対象地域には兵庫県南あわじ市上幡多集落を選定した。三原平野の農業生産は,水稲やタマネギ,キャベツ,レタス,ハクサイなどを組み合わせた「三毛作」と呼ばれる年2~3作の輪作体系による集約的農業が周年的に展開し,耕作放棄地は少ない。主産品であるタマネギやキャベツ,レタス,ハクサイは秋から春にかけて市場で一定の地位を保っている。出荷については,市内に青果物卸業者が80社あり,農協外出荷の割合も高くなっている。畜産農業については,耕種農業と畜産の分化がさらに進み,一部の大規模酪農農家や肉用牛繁殖農家によって行われている。集落内に畜産農家がいない場合は,何らかの社会関係を有する他集落の堆肥供給農家から堆肥を調達するようになっている。様々な地域単位をもとにして農業生産が展開しており,様々な性格を有する主体間関係を分析するうえで好適な研究対象地域と考えられる。2.研究方法 研究方法は社会ネットワーク分析の枠組みを援用し,新しいものから既存のものまで様々な位相で展開する複相ネットワークを,それぞれの位相の相互関係に留意しながら考察する。社会ネットワーク分析では,人間関係をノード間の紐帯の有無や強度,ノード間の距離やノード媒介性などを量的に分析することが多い。しかし,農村部では経済活動と社会生活が不可分に展開しており,量的に把握することは困難である。そこで本発表ではノードを結ぶパスの性質に留意して分析した。パスの性質に関して,パスの基盤となる主体間関係のあり方は,大きく2つに分けられる。1つ目は定住に基づく拘束的なものである。いわゆる「地縁」や「血縁」,水利組合などの機能集団を通じた「結社縁」といった入脱退困難な関係で個人の自由で「選べない縁」である。2つ目はこれらの関係によって説明できない関係である。このような関係は居住地などとは無関係に取り結ばれ,入脱退が可能で選択的に取り結ばれる関係で「選べる縁」とされる。具体的には,経済取引に限定されたような関係などであり,契約解消により関係もノード間のパスとなる関係も途絶えるようなものである。3.結果 対象地域において,農家の所有耕地および借地面積は大きくても2.5haであるが,年3作行うために,実質的な経営耕地面積は5~6haとなっていた。農業従事者の平均年齢は60歳を超えており,近年に離農した世帯もみられる。作付品目については,専業農家や第1種兼業農家は多様な品目を栽培し,とくにレタスの割合が高くなっている。第2兼業農家や労働力の少ない第1種兼業農家は,米とタマネギのみの年2作といった作型を選択する傾向にあった。こうした農業経営形態のなかで,農家の世帯収入の大半を,専業農家は裏作である野菜作,兼業農家は農外就業から得ていた。各農家の農業経営自体は独立しているが,水稲作においては集団転作も含めて集落単位で管理されるようになっていた。また農業生産を展開するうえで,とくに農業機械の共有と堆肥調達,出荷をめぐり複数の農家間での共同作業や,農家間での取引が必須となっていた。 対象地域において農業機械の共有は,水稲作の移植機とコンバイン,タマネギ栽培の移植機と収穫機でみられた。機械共有をめぐるネットワークにおいて,水稲作デは収益性の低さから,集落などの社会集団が準拠枠となって,ネットワークを構成するノードが多くなっていた。一方,タマネギ生産に関する機械共有ネットワークではノードが水稲作に比べて少なく,ノード間のパスも「選べない縁」が含まれる場合もあるが,移植時期の調整といった農業経営の側面が条件となっていた。さらに発表では,堆肥調達と出荷においても機械共有と同様の分析を行い,これらのネットワークのあり方と農業経営との関係について考察を加える。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205696395264
  • NII論文ID
    130005473397
  • DOI
    10.14866/ajg.2013s.0_89
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ