日本における生物圏保存地域(ユネスコエコパーク)の現状と展望

書誌事項

タイトル別名
  • The current status of Biosphere Reserves in Japan

説明

1971年に発足したユネスコの人間と生物圏(MAB; Man and the Biosphere)計画は,生物多様性の保全と豊かな人間生活の調和および持続的発展を実現するために設立された国際協力プログラムである.MAB計画では,貴重な陸上及び沿岸生態系を生物圏保存地域(Biosphere Reserves,日本国内での通称:ユネスコエコパーク)を指定する事業を1976年より進めている.日本では1980年に屋久島,大台ヶ原・大峰山,白山,志賀高原の4カ所が登録され,32年ぶりに2012年7月に宮崎県綾地域が新規登録された.生物圏保存地域は,基本的に核心地域(core area)を中心として,周囲を緩衝地域(buffer zone),移行地域(transition area)が取り囲む,同心円状のゾーニングが行われる.各エリアでは3つの機能的活動(保全・発展・学術的支援)が目的に合わせて行われる.特に,機能の一つに持続可能な「発展(development)」を掲げている点が大きな特徴であり,同じユネスコのプログラムである世界自然遺産の,原生的な自然を厳格に保護することを目的としているのとは対照的である.目的に即したゾーン設定を行う生物圏保存地域の理念は世界的にも評価されている.生物圏保存地域事業は,設立当初,管理運営計画は自然環境の保護・保全に重点が置かれていた.しかし,1996年のセビリア戦略において,自然環境の保全だけではなく,移行地域における自然環境保全と人間生活の両立の実践,地域固有の文化の保全,教育・研修,長期的な環境変動のモニタリング活動の重要性が再確認され,2008年から2013年に実施するマドリッド行動計画(Madrid Action Plan)が発行されている.生物圏保存地域の登録地点数は,2012年8月現在117ヵ国598地域に達しており,様々な取り組みが各地で進められている.一方,日本では,MAB計画黎明期の1980年に4地域が登録されたものの,その後は生物圏保存地域に関する取り組みは全く行われず,地域住民にもほとんど認知されず現在に至っている.日本の生物圏保存地域における活動が,活発でなかった最も大きな原因は,指定に至るプロセスが中央関係省庁のみで行われ,地域や世間一般にその概念や仕組みが周知されなかったことが挙げられる.近年日本では,公共事業や地域振興のための開発や過疎化をめぐる様々な自然保護問題が顕在化しており,今後も同様の問題が継続的に生じると予想され,MAB計画の生物圏保存地域の枠組みを活用した自然環境の保全と人間生活の両立に向けた活動は,これら問題を解決する有効な選択肢の一つである.

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205696489216
  • NII論文ID
    130005456839
  • DOI
    10.14866/ajg.2012a.0_100121
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ