流れ山の配列パターンとそれを規定する地形条件について

書誌事項

タイトル別名
  • Topographic control by the pre-avalanche topography on the alignment of debris avalanche hummocks

説明

「流れ山」は,巨大山体崩壊により岩屑なだれが生じて形成される堆積地形のひとつである.流れ山の配列の規則性については,最近,岩屑なだれのより複雑な流走プロセスとの関連で議論されるようになってきている.例えば,Paguican et al.(2012)は,アナログモデルも導入しつつ,岩屑なだれ内部に生ずる局所的応力場(引張場と圧縮場)の結果として,堆積面に形成される地形的特徴が規定されるというモデルを示し,その中に流れ山の形成が位置づけられている.また筆者は,日本とフィリピンにおける複数事例の流れ山の長軸方向を定量的に記述し,Paguican et al.(2012)のモデルが意味するように,岩屑なだれの流動の複雑さ(あるいは単純さ)を反映していると考えられる,流れ山の配列に関わる傾向を見出している(Yoshida 2013).そこで次なるステップとして,本研究では,Yoshida(2013)において判明した流れ山の配列パターンを規定しうる地形場の影響について議論する.<br><br>本研究では,日本における7つの岩屑なだれ(有珠・善光寺,岩木・十腰内,羊蹄・羊蹄,尻別・留寿都,那須・観音川,鳥海・象潟冬師,那須・御富士山)を検討対象とした. <br>はじめに,流れ山の長軸方向を定量的に把握した.それぞれ空中写真判読により認定された流れ山地形について,GIS(TNTmips)上で個々のポリゴンとして各種の計測が可能なようにし,流れ山ポリゴンの対角線のなかで最長のものを流れ山の長軸と定めた.そして,ポリゴンの重心と山体崩壊直前の給源位置(または推定山頂位置)とを両端点とする線分の方向を各流れ山の流向とみなし,この線分と長軸とがなす交角のうち鋭角(0°≦θ<90°)を,流れ山の長軸方向の流下方向からの「ずれ角度」と定義した。本研究ではこの「ずれ角度」の大小により,流れ山の配列を評価し,その流走距離との関係を示した.<br>一方,岩屑なだれ流走域の地形的条件として,流走時の地表面傾斜に着目した.岩屑なだれ流走時の地表面傾斜は岩屑なだれ堆積底面傾斜に近似できると考えるが,その復元は資料の制約上,現時点でほぼ不可能なため,本研究においては現地形の接谷面を岩屑なだれ流走(流れ山地形形成)直前の仮想地形面とみなし,その傾斜を求めた.まず,国土地理院の10mDEM(基盤地図情報GML形式)を用いて,対象地域を包含する領域の標高モデルを作成した.さらに,それを用いて接谷面を作成し,接谷面の傾斜分布図を作成した.そして,各流れ山(ポリゴン)についての接谷面傾斜の平均値を算出し,流走距離との関係を示した.<br>以上の2つのデータセット,すなわち,流れ山長軸方向のずれ角度の縦断変化と接谷面傾斜の縦断変化とについて,それぞれ区間平均値を算出して全体の傾向を抽出したのち,両関係の対応関係を検討した.<br><br>流れ山のずれ角度の縦断変化は,岩屑なだれ流下以前の地形を近似する接谷面の傾斜の変化と対応していることが判明した.すなわち,岩屑なだれ流走域の傾斜変化に応じて岩屑なだれ中の応力場が変化し,そのことが流れ山の配列に影響を与えたと考えられる.今回の対象事例に基づき,流れ山のずれ角度の変化傾向を傾斜との関連で整理すると,次のようである.すなわち,接谷面の傾斜とその流走方向変化について,<br>A:減傾斜区間<br>B:減傾斜区間から一定区間への移行部<br>C:一定区間から減傾斜区間への移行部<br>D:一定区間<br>E:一定区間から増傾斜区間への移行部<br>F:増傾斜区間から一定区間への移行部<br>G:増傾斜区間<br>H:減傾斜区間から増傾斜区間への移行部<br>I:増傾斜区間から減傾斜区間への移行部<br>の9つに分けたとき,ずれ角度が減少する(流れ山が平行傾向となる)のはB,D,E,G,Hのときであり,ずれ角度が増加する(流れ山が直交傾向となる)のはA,C,F,Iのときである.例えば,留寿都岩屑なだれでは,流走距離4000m~4500m付近まで減傾斜区間(A)であり,ずれ角度は増加傾向にある.傾斜の減少が継続することにより,岩屑なだれ内部は圧縮場へと移り変わっていったことを反映していると考えられる.また,距離4500m付近で減傾斜区間から一定区間に移り変わると(B),ずれ角度は減少する.これについては,傾斜の減少傾向に歯止めがかかることにより,それまでの圧縮場から相対的な引張場へと変化してずれ角度の減少がもたらされた,と説明できる.<br>個々の事例の詳細については,それ以外の地形的条件も考慮すべきであるが,今回の検討により,基本的には岩屑なだれ流走域の地表面傾斜が堆積面の形態を規定していることが明らかとなった.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205696539648
  • NII論文ID
    130005473394
  • DOI
    10.14866/ajg.2013a.0_100030
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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